【京都・九条邸・庭】
夜を「鬼女」だと誤解したまま
シズコは泣き叫ぶ
その目からは
血の涙が流れていた
夜:「落ち着いてシズコさん!」
夜:「私はあなたの姑じゃない!」
シズコ:「マモルの為に景明さんと別れたじゃないですかぁ!」
シズコには
夜の声は届いていない
彼女の世界では
目の前の女は
愛する我が子を奪った
非道な姑でしかない
シズコ:「『子供に会わせる』という約束が違う!」
シズコ:「なぜ邪魔をするんですか!」
夜は必死に説得を試みる
だが無駄だった
シズコ:「使用人を使って私を罠にはめるなんて!」
シズコ:「なんでそんな酷いことができるんですかー!」
絶叫と共に
シズコはその両腕に
全ての憎悪を込めた
夜の体が
まるで木の葉のように宙を舞う
そして
九条家の壁に
凄まじい勢いで激突した
だが
夜の体を覆う日(アキラ)の黒いローブが
その衝撃を完全に吸収する
彼女はふわりと
猫のように音もなく着地した
そこへ
シズコが長い腕を
巨大な槌のように
上から夜に叩き下ろす
夜は咄嗟に
腰の鞘を抜き
漆黒の刀でそれを受け止めた
刃には最小限の霊力しか込めていない
シズコを傷つけないためだ
キンッ!
甲高い音が響く
シズコは子供が駄々をこねるように
右手
左手と
なりふり構わず
夜を滅茶苦茶に叩き続けた
夜はその単調な攻撃を
いなし
受け流し
捌き続ける
だが埒が明かない
このままでは
夜の体力だけが削られていく
夜:(考えるんだ……どうする?)
夜:(この人は、ただ悲しいだけなんだ)
夜:(ただ、我が子に会いたいだけなんだ)
夜:(……滅するわけには、いかない)
夜は
シズコの攻撃の合間を縫って
思考を巡らせる
夜:(シズコさんが求めているのは、息子の『マモル』)
夜:(そして、彼女を鎮めていたのは、四体の『子供地蔵』)
夜:(……地蔵……子供……マモル……)
全てのピースが
夜の頭の中で一つの答えを導き出す
それは
あまりにも危険で
あまりにも突飛な
一つの賭けだった
夜:(……これに、賭けるしかない)
夜はシズコの叩きつける腕を
今度は避けずに
あえて受け止めた
そして
彼女の懐へと
一気に、踏み込んだ



