【京都・九条邸】
夜は
呪いの中心地である
九条家の庭へと
一人、走り出した
全身を襲う
電流のような痛みに耐えながら
その時
彼女の頭の中にだけ
兄の声が響いた
日(アキラ):『夜!待って』
夜の足が
ぴたりと止まる
彼女は天を仰ぎ
今度は、はっきりと声に出して言った
夜:「なんだ?アキラ」
日(アキラ):『さすがに、このまま目の前まで行くと、夜でも動けなくなる』
日(アキラ):『この霊圧は、尋常じゃない』
夜:「じゃあ、どうする?」
日(アキラ):『今から僕が言うことを聞いて』
日(アキラ):『今は、僕の存在を隠すための霊力は、全て夜が使って』
日(アキラ):『僕は、このヤツの霊圧と、全く逆の性質の霊圧を、同じ規模で出して、相殺させる』
夜は、兄の覚悟を理解し
静かに、しかし強く、頷いた
日(アキラ):『でも、それをすると、この規模の霊圧だ。夜に貸せる霊力は、もう残らない』
日(アキラ):『だから、後は、夜が、一人で戦うしかなくなる……』
その、兄の悲痛な覚悟に
夜は、不敵に、そして美しく微笑んだ
夜:「望むところだな」
その言葉を合図に
夜の背後に
ゆらり、と
日(アキラ)の、巨大な死神の姿が完全に具現化した
夜の体から
霊力が黒い炎となって激しく燃え盛る
日(アキラ)は
その巨大な両手を広げ
自らの全ての霊力を
一気に、解放した!
凄まじい衝撃波が
目に見えない世界で衝突する
それまで夜の体を苛んでいた
電流のような痛みが
嘘のように、すっと消えた
夜は
腰に差していた、鞘だけの刀を抜く
そして、そこに自らの霊力を注ぎ込むと
空っぽのはずの鞘から
漆黒の刃が、音もなく現れた
戦いの準備は、整った
【九条家・室内】
仁は
圧倒的な霊圧に押し潰されそうになりながら
床の上で、必死に耐えていた
全身の骨がきしみ
意識が、遠のいていく
(もう……あかん……!)
彼が、完全に気を失いかけた
その時だった
ふっと
体を押し潰していた
鉛のような重圧が
完全に、消え去った
仁は、ぜえぜえと荒い息を整えながら
ゆっくりと、顔を上げる
そして
家の外
庭の方角を見つめ
安堵と、誇りに満ちた声で
静かに、呟いた
仁:「……やっと、来たようやな」



