夜探偵事務所と八尺様

第六章:救済



【京都・九条邸】

割れた窓ガラスは
九条がシャッターや雨戸で塞ぎ
それが無い場所は
ベニヤ板を打ち付けていた
家はまるで
外界から隔絶された要塞のようやった
時刻は、夜20時を回った
仁は焦っていた
夜からの連絡が、まだない
前夜、八尺様が現れたのは22時
同じ時刻に来るとは限らん
仁は家の至る所に
昨日よりも多く強力な盛り塩を置いた
結界も自身の霊力を削りながら
さらに強固なものへと張り直している
仁:「よろしいですかな、九条さん」
仁:「今夜、娘の夜がここへ来ます」
仁:「じゃが、それまでは、昨日と同じように耐えるしかない」
仁:「遥人君を、絶対に守り抜きますで」
九条夫妻は
固い表情で、頷いた
その時やった
ピンポーン
呼び鈴の音が
静まり返った家の中に
鋭く響き渡った
母親が、びくりと肩を震わせる
彼女は、仁の顔を見た
仁が頷くのを確認し
おそるおそる、インターホンの受話器を取った
母親:「……はい」
『……わたし……』
インターホンから聞こえてきたのは
ノイズ混じりの
女とも子供ともつかない
奇妙な声やった
母親は無言で仁を見る
仁がインターホンのモニターを確認した
じゃが
暗い玄関先には
誰の姿も映っとらん
仁は玄関へと走った
そして
驚愕に、目を見開いた
玄関に置いたばかりの
真っ白な盛り塩が
すでに、じわりと
黒く変色し始めていた
仁:「……もう、来やがったんか!」
彼はリビングへと駆け戻り
絶叫した
仁:「九条さん!持ち場につきなはれ!」
仁:「奥さんもや!遥人君を、すぐに部屋へ!」
家族が、それぞれの持ち場へと散っていく
仁は階段の中ほどに座り
玄関を睨みつけた
仁:(早すぎる……!昨夜より、二時間も早い!)
仁:(夜の到着まで、もつかどうか…)
仁:(……いや、もたせるしか、ないんや!)
八尺様の、第二夜の襲撃が
今、始まろうとしていた