「レオナ、これ見た?」
朝、顔を合わせるなりミオはスマホ画面を見せてきた。
そこに映っていたのは、わたしと塔屋くん。わたしが射的の鉄砲をかまえて狙いを定めているのを、塔屋くんが補佐している様子だった。
誰が見ても恋人同士ってかんじで距離が近い。けど、わたしも塔屋くんも撮られているなんて知らないから、すっごい油断していてはずかしい。
「なにこれ盗撮じゃん」
わたしは怒りの声をあげた。
近所の祭りだから、それはもちろん、誰かと顔を合わせるのは想定済みだ。からかわれたりすることはあるかもって覚悟してたけど、勝手に撮って勝手に拡散するのはちがうと思う。
ミオは同情するようにいった。
「しかも『男たらし』っていわれてるよ」
「どうしてよ」
声をかけてきたのは7MENの方からだし、朝霧はそれはたしかに友達からなんて返事したけど、友達でしょ。付き合おうとかいってないよ。なんでそんなこといわれなきゃならないの。
っていうか、なんで知ってるの。
7MENから声をかけられたって、誰かが言いふらしているんじゃない?
そうでなければ男たらしなんて言葉は出てこないよね。塔屋くんとデートできてうらやましいって、普通はそうならない?
なんでよ。どうしてそうなるの。
学校へ着くとちょうど塔屋くんが朝練から戻ってくるところだった。
塔屋くんだってきっと戸惑っているはず。
かけよって声をかけた。
「塔屋くん」
「あ」
塔屋くんはわたしに気がつくと、ばつが悪そうに視線をそらした。その反応に不穏さを覚えた。
「あ、あのぅ……」
「なんか、拡散されてるね」
「ねぇ、聞いて、ちがうの」
「ちがうって、なに? オレは何番目なの」
塔屋くんは強めにいって、わたしを見下ろした。やっぱり、わたしのこと誤解している。
「どうして……そんなこと聞くの」
「答えられないんでしょ」
「塔屋くんは? どうなの」
沈黙されて、それは聞き返しちゃいけなかったと気づく。
真っ先にあなたしか見てないって、そういわなきゃいけなかった。
塔屋くんはがっかりしたようにため息をついた。
「わるい。オレも軽く誘っちゃったよね」
そういって塔屋くんはわたしのもとを去って行った。なんも未練がないかんじがしてさみしい。
だけど、そんなのずるいよ。結局、塔屋くんだってわたしのことが一番だって、きみだけだって、一言もいってない。
なんでわたしだけが悪いようにいわれるの。
「いいよ、もう。わたしのことも信じられないならさ。離れたかったら離れたらいいよ」
ミオが見ている手前、強がってそういうしかなかった。
「ほんとだね。いまのはひどいと思う」
ミオはわたしの背中に手を当てた。
わかったふうなことをいわないで。
はっきりいって、慰められたくなんかはない。
イライラした感情が爆発しそうになっている。
そこへ朝霧まで現れた。
「オレのこと、キープしようとしてた?」
朝霧は顔を見るなりいきなり切り出す。
わたしは懸命に首を振った。
「そんなつもりないよ。だって、友達になりたいっていうのは本当だし――」
「え? 友達からって、付き合うことを前提にお互いのことを知っていくことだって思ってたんだけど。もっと早くにいってよ。塔屋先輩と付き合ってるならさ。オレだって次にいけるから」
「なんか、みんな勘違いしてる」
わたしがなにか話そうにも、朝霧は聞く耳を持っていなかった。あざ笑うように一瞥すると、さっさと行ってしまう。
そんな冷淡な態度、とる必要ある? わたし、そんな悪いことした?
わたしだってプライドあるから追いかけられない。
だけど、このままじゃSNSが正しいことになっていかないかな。
するとミオは気遣うようにおずおずと口を開いた。
「きょう、水泳部の記録会だけど、どうする? またなんか、言われちゃわない?」
「平気だよ」
とっさに口をついてでた。
「桜庭先輩は見に来てくれたらうれしいなっていっただけだもん。応援するくらいいいじゃない」
ムキになってそういった。
負けたくない。何に負けたくないかって、表に出てこないでこそこそと嫉妬しているヤツらに。
わたしは、声をかけられただけなの。
選ばれるのはわたしなの。
わたしが白雪姫なんだってところを見せつけてやる。
放課後、ミオと一緒にプールサイドの最前列を陣取った。
桜庭先輩の人気なのか、たんなる記録会にしてはたしかに人が多い。しかも、女子ばかりだ。
こんなに大勢の中だってわたしは埋もれない自信はある。
周りはまさにモブ。盛り上げ役は多いに越したことがない。
桜庭先輩の順番が回ってきてより大きな声援が響き渡る。桜庭先輩はギャラリーに手を振ることも忘れない。
こちらのほうを見たとき、目が合ったような気がした。
わたしは胸の前で両手をにぎしめてただただ見つめていた。
「桜庭先輩、けっこう余裕だね」
はじめて見に来たわたしは試合前の緊張感というのか、ドキドキわくわくするような気持ちだった。
ミオも固唾を飲んで見守っている。
「むしろ余裕ぶって落ち着かせてるんだって」
「ふうん」
ミオは桜庭先輩のことはよく知っているようだった。人づてに情報収集してるのなら、ちょっとけなげかも。
ピッーとホイッスルが鳴ってスタートした。頭が浮いてきたときからもう桜庭先輩は頭一つ抜けている。ぐんぐん泳いでいって、あっという間の50メートル。
桜庭先輩は1番に到着した。さすが7MEN。カッコイイだけではなかった。
プールサイドに上がり、水を滴らせながらこちらへ歩いてくる。キャップをとってブルンと頭を振るとしぶきが散って、それでまたギャラリーも盛り上がる。
ミオがいってたとおり、桜庭先輩は歩きながら片手を上げて、前列にいる女子とハイタッチしていった。
次はわたしだ。わたしは片手を上げて満面の笑みで待ち構える。桜庭先輩が来てほしいっていってたんだもの。わたしのことをずっと探していたはず。
わたしはここでずっと桜庭先輩を見てたよ。
桜庭先輩はわたしにハイタッチしてくれた。
でも、視線がずれている。隣のミオとハイタッチすると歩みを止めた。
「今日もサンキュ」
「いえ……」
ミオは小さくなりながら答えた。
どういうわけか、桜庭先輩はハイタッチしたままミオの手をにぎりしめている。
そしてミオの耳元に近づいてコソっと耳打ちしたが、思いっきりわたしにも聞こえていた。
「友達は選んだ方がいいかもね」
「え……はい……」
桜庭先輩はわたしには目もくれず、他のギャラリーとハイタッチして行ってしまった。
「……どういうこと?」
桜庭先輩を見送るミオの肩をつかんでこちらに振り向かせた。
「そんなこといわれても。そのまんまの意味じゃない?」
ミオはわざとらしく、きょとんとした顔をして見せた。
「桜庭先輩だってレオナが男たらしだって気がついちゃったんでしょ?」
「はぁ?」
楯突くミオに怒りがわいてきた。
「そういうことだから」
「なにいってるの」
「毒リンゴを食べて、レオナは社会的に死んだのよ」
「まだ白雪姫の話をしてるの?」
「そうよ」
ミオはポケットからあのカードを取り出した。
カードには『白雪姫は 毒リンゴを食べました』と書いてある。
「それだったらまだ続きがあるはずよ。そのあと白雪姫は王子のキスで目覚めるの。7MENのうちの誰かがわたしを救ってくれるんだわ。――あ、そうじゃないか。7人のこびとはもうどうでもいいのよ。それ以外の、本当の王子さまがわたしの前に現れるから!」
威勢よく言うと、ミオは笑いをかみ殺していた。
「それはどうかしら? こんなカード、切り裂いてしまえば物語はここで終わる――」
ミオが引き裂こうとするカードをひったくった。
冗談じゃない。このままわたしだけが損をして終われない。
わたしが幸せになるとかそれよりも前に、ミオを地獄に突き落としたい。
裏切ったのはミオなんだから、当然よ。
わたしはカードに願をかけて叫んだ。
「白雪姫をおとしめた継母は 地獄の釜のように燃えたぎる靴を履いて踊り狂う!」
今度こそミオは吹き出して大笑いした。
「なにそれ。そんなでたらめ。ストーリーにないこといってもムダよ。わたし、知ってるんだから。レオナのことを呪って何度も違うことを願ったけど、物語からそれることはできないの」
「なにいってるの。呪うってなによ――」
まったく状況が整理できない中、急に手のひらが熱くなった。
見るとカードに火がついている。
「熱っ!」
あわててカードを放り投げると炎を上げて燃えた。ひときわ大きな炎になったかと思うと、火の粉を散らして方々へ飛んで燃え尽きてしまった。
一瞬びっくりしていたようだったけど、カードがなくなってもミオは平然としていた。
「あらあら。かわいそうに。一生そのまま」
ミオは抑揚のないセリフをいい、わたしをおいてさっさとプールサイドから出て行ってしまった。
わたしはその様子をうかがう。
こんなことに巻き込んだミオが、許されていいはずない。
ミオが自分の靴を履いたときだった。ミオが悲鳴を上げて足を踏みならしてドタバタしはじめた。
「あの火の粉よ! 靴に入ったんだ。レオナのヤツ、なにしてくれてんの!」
ミオは必死に靴を脱ごうとジタバタしている。
火の粉のせいかはわからない。
でも、わたしはカードが燃え尽きる前に文章が変わったのを見ていた。
「ミオ」
呼びかけるとミオはわたしに食ってかかろうとしたが、足がおぼつかなくて自分で倒れ込む。
「ミオは知らなかったのね。絵本の白雪姫は残酷な描写なんてないけど、原作はちゃんと白雪姫をいじめた継母が制裁を受けてるの。熱せられた鉄の靴を履くという拷問を受けるというのが、本当のラストシーン。最高の名シーンだわ」
うっとりするくらいにミオの不幸を眺める。
ミオも負けじと罵声を浴びせた。
「レオナだっておしまいよ。それで物語が終わりなら、あなたも救われないまま終わるんだから。あなたになんか、誰も見向きもしないんだから!」
いや終わらせない。
わたしはあきらめない。王子さまはきっといるの。
だって、わたしは世界で一番かわいいんだから。
朝、顔を合わせるなりミオはスマホ画面を見せてきた。
そこに映っていたのは、わたしと塔屋くん。わたしが射的の鉄砲をかまえて狙いを定めているのを、塔屋くんが補佐している様子だった。
誰が見ても恋人同士ってかんじで距離が近い。けど、わたしも塔屋くんも撮られているなんて知らないから、すっごい油断していてはずかしい。
「なにこれ盗撮じゃん」
わたしは怒りの声をあげた。
近所の祭りだから、それはもちろん、誰かと顔を合わせるのは想定済みだ。からかわれたりすることはあるかもって覚悟してたけど、勝手に撮って勝手に拡散するのはちがうと思う。
ミオは同情するようにいった。
「しかも『男たらし』っていわれてるよ」
「どうしてよ」
声をかけてきたのは7MENの方からだし、朝霧はそれはたしかに友達からなんて返事したけど、友達でしょ。付き合おうとかいってないよ。なんでそんなこといわれなきゃならないの。
っていうか、なんで知ってるの。
7MENから声をかけられたって、誰かが言いふらしているんじゃない?
そうでなければ男たらしなんて言葉は出てこないよね。塔屋くんとデートできてうらやましいって、普通はそうならない?
なんでよ。どうしてそうなるの。
学校へ着くとちょうど塔屋くんが朝練から戻ってくるところだった。
塔屋くんだってきっと戸惑っているはず。
かけよって声をかけた。
「塔屋くん」
「あ」
塔屋くんはわたしに気がつくと、ばつが悪そうに視線をそらした。その反応に不穏さを覚えた。
「あ、あのぅ……」
「なんか、拡散されてるね」
「ねぇ、聞いて、ちがうの」
「ちがうって、なに? オレは何番目なの」
塔屋くんは強めにいって、わたしを見下ろした。やっぱり、わたしのこと誤解している。
「どうして……そんなこと聞くの」
「答えられないんでしょ」
「塔屋くんは? どうなの」
沈黙されて、それは聞き返しちゃいけなかったと気づく。
真っ先にあなたしか見てないって、そういわなきゃいけなかった。
塔屋くんはがっかりしたようにため息をついた。
「わるい。オレも軽く誘っちゃったよね」
そういって塔屋くんはわたしのもとを去って行った。なんも未練がないかんじがしてさみしい。
だけど、そんなのずるいよ。結局、塔屋くんだってわたしのことが一番だって、きみだけだって、一言もいってない。
なんでわたしだけが悪いようにいわれるの。
「いいよ、もう。わたしのことも信じられないならさ。離れたかったら離れたらいいよ」
ミオが見ている手前、強がってそういうしかなかった。
「ほんとだね。いまのはひどいと思う」
ミオはわたしの背中に手を当てた。
わかったふうなことをいわないで。
はっきりいって、慰められたくなんかはない。
イライラした感情が爆発しそうになっている。
そこへ朝霧まで現れた。
「オレのこと、キープしようとしてた?」
朝霧は顔を見るなりいきなり切り出す。
わたしは懸命に首を振った。
「そんなつもりないよ。だって、友達になりたいっていうのは本当だし――」
「え? 友達からって、付き合うことを前提にお互いのことを知っていくことだって思ってたんだけど。もっと早くにいってよ。塔屋先輩と付き合ってるならさ。オレだって次にいけるから」
「なんか、みんな勘違いしてる」
わたしがなにか話そうにも、朝霧は聞く耳を持っていなかった。あざ笑うように一瞥すると、さっさと行ってしまう。
そんな冷淡な態度、とる必要ある? わたし、そんな悪いことした?
わたしだってプライドあるから追いかけられない。
だけど、このままじゃSNSが正しいことになっていかないかな。
するとミオは気遣うようにおずおずと口を開いた。
「きょう、水泳部の記録会だけど、どうする? またなんか、言われちゃわない?」
「平気だよ」
とっさに口をついてでた。
「桜庭先輩は見に来てくれたらうれしいなっていっただけだもん。応援するくらいいいじゃない」
ムキになってそういった。
負けたくない。何に負けたくないかって、表に出てこないでこそこそと嫉妬しているヤツらに。
わたしは、声をかけられただけなの。
選ばれるのはわたしなの。
わたしが白雪姫なんだってところを見せつけてやる。
放課後、ミオと一緒にプールサイドの最前列を陣取った。
桜庭先輩の人気なのか、たんなる記録会にしてはたしかに人が多い。しかも、女子ばかりだ。
こんなに大勢の中だってわたしは埋もれない自信はある。
周りはまさにモブ。盛り上げ役は多いに越したことがない。
桜庭先輩の順番が回ってきてより大きな声援が響き渡る。桜庭先輩はギャラリーに手を振ることも忘れない。
こちらのほうを見たとき、目が合ったような気がした。
わたしは胸の前で両手をにぎしめてただただ見つめていた。
「桜庭先輩、けっこう余裕だね」
はじめて見に来たわたしは試合前の緊張感というのか、ドキドキわくわくするような気持ちだった。
ミオも固唾を飲んで見守っている。
「むしろ余裕ぶって落ち着かせてるんだって」
「ふうん」
ミオは桜庭先輩のことはよく知っているようだった。人づてに情報収集してるのなら、ちょっとけなげかも。
ピッーとホイッスルが鳴ってスタートした。頭が浮いてきたときからもう桜庭先輩は頭一つ抜けている。ぐんぐん泳いでいって、あっという間の50メートル。
桜庭先輩は1番に到着した。さすが7MEN。カッコイイだけではなかった。
プールサイドに上がり、水を滴らせながらこちらへ歩いてくる。キャップをとってブルンと頭を振るとしぶきが散って、それでまたギャラリーも盛り上がる。
ミオがいってたとおり、桜庭先輩は歩きながら片手を上げて、前列にいる女子とハイタッチしていった。
次はわたしだ。わたしは片手を上げて満面の笑みで待ち構える。桜庭先輩が来てほしいっていってたんだもの。わたしのことをずっと探していたはず。
わたしはここでずっと桜庭先輩を見てたよ。
桜庭先輩はわたしにハイタッチしてくれた。
でも、視線がずれている。隣のミオとハイタッチすると歩みを止めた。
「今日もサンキュ」
「いえ……」
ミオは小さくなりながら答えた。
どういうわけか、桜庭先輩はハイタッチしたままミオの手をにぎりしめている。
そしてミオの耳元に近づいてコソっと耳打ちしたが、思いっきりわたしにも聞こえていた。
「友達は選んだ方がいいかもね」
「え……はい……」
桜庭先輩はわたしには目もくれず、他のギャラリーとハイタッチして行ってしまった。
「……どういうこと?」
桜庭先輩を見送るミオの肩をつかんでこちらに振り向かせた。
「そんなこといわれても。そのまんまの意味じゃない?」
ミオはわざとらしく、きょとんとした顔をして見せた。
「桜庭先輩だってレオナが男たらしだって気がついちゃったんでしょ?」
「はぁ?」
楯突くミオに怒りがわいてきた。
「そういうことだから」
「なにいってるの」
「毒リンゴを食べて、レオナは社会的に死んだのよ」
「まだ白雪姫の話をしてるの?」
「そうよ」
ミオはポケットからあのカードを取り出した。
カードには『白雪姫は 毒リンゴを食べました』と書いてある。
「それだったらまだ続きがあるはずよ。そのあと白雪姫は王子のキスで目覚めるの。7MENのうちの誰かがわたしを救ってくれるんだわ。――あ、そうじゃないか。7人のこびとはもうどうでもいいのよ。それ以外の、本当の王子さまがわたしの前に現れるから!」
威勢よく言うと、ミオは笑いをかみ殺していた。
「それはどうかしら? こんなカード、切り裂いてしまえば物語はここで終わる――」
ミオが引き裂こうとするカードをひったくった。
冗談じゃない。このままわたしだけが損をして終われない。
わたしが幸せになるとかそれよりも前に、ミオを地獄に突き落としたい。
裏切ったのはミオなんだから、当然よ。
わたしはカードに願をかけて叫んだ。
「白雪姫をおとしめた継母は 地獄の釜のように燃えたぎる靴を履いて踊り狂う!」
今度こそミオは吹き出して大笑いした。
「なにそれ。そんなでたらめ。ストーリーにないこといってもムダよ。わたし、知ってるんだから。レオナのことを呪って何度も違うことを願ったけど、物語からそれることはできないの」
「なにいってるの。呪うってなによ――」
まったく状況が整理できない中、急に手のひらが熱くなった。
見るとカードに火がついている。
「熱っ!」
あわててカードを放り投げると炎を上げて燃えた。ひときわ大きな炎になったかと思うと、火の粉を散らして方々へ飛んで燃え尽きてしまった。
一瞬びっくりしていたようだったけど、カードがなくなってもミオは平然としていた。
「あらあら。かわいそうに。一生そのまま」
ミオは抑揚のないセリフをいい、わたしをおいてさっさとプールサイドから出て行ってしまった。
わたしはその様子をうかがう。
こんなことに巻き込んだミオが、許されていいはずない。
ミオが自分の靴を履いたときだった。ミオが悲鳴を上げて足を踏みならしてドタバタしはじめた。
「あの火の粉よ! 靴に入ったんだ。レオナのヤツ、なにしてくれてんの!」
ミオは必死に靴を脱ごうとジタバタしている。
火の粉のせいかはわからない。
でも、わたしはカードが燃え尽きる前に文章が変わったのを見ていた。
「ミオ」
呼びかけるとミオはわたしに食ってかかろうとしたが、足がおぼつかなくて自分で倒れ込む。
「ミオは知らなかったのね。絵本の白雪姫は残酷な描写なんてないけど、原作はちゃんと白雪姫をいじめた継母が制裁を受けてるの。熱せられた鉄の靴を履くという拷問を受けるというのが、本当のラストシーン。最高の名シーンだわ」
うっとりするくらいにミオの不幸を眺める。
ミオも負けじと罵声を浴びせた。
「レオナだっておしまいよ。それで物語が終わりなら、あなたも救われないまま終わるんだから。あなたになんか、誰も見向きもしないんだから!」
いや終わらせない。
わたしはあきらめない。王子さまはきっといるの。
だって、わたしは世界で一番かわいいんだから。



