ユキへのプレゼントはそれぞれが買うことにしようってことで、かぶらないように選んだ。わたしはユキが好きなキャラクターのマスキングテープで、ミオはポストイット。
誕生日は二日後だから今日は持ってきてない。せっかく買ったんだから忘れないようにしないとね。
ミオとユキといつものメンツで学校に登校して、次々と見知った顔とあいさつをかわしていく。
学校に着いて靴箱にシューズをしまおうとすると、上履きの上になにかが乗っかっていることに気がついた。
手紙だ。
今どき手紙って思うけど、かえってその方がドキドキした。
それに、これ見よがしに置いてあるなんて、相手の度胸にも心つかまされる。
誰からだろう。ここで読むべきかな。
手紙を取り出して確認すると、間違えなくわたし宛てだった。裏に返すと『朝霧』と書いてある。
朝霧って、1年A組の、あの朝霧? 自然と口角が上がってしまう。
そばからのぞき込んだミオがはやしたてるようにいった。
「もしかして、7MENの朝霧?」
うちの中学で7MENと呼ばれている男子がいた。イケメンで女子からすっごくモテる、高スペックの7人。それぞれ部活動もしていて、レギュラーメンバーにだって選ばれている。試合がある日は動員かけなくても応援団が結成されてチームを盛り立てた。
朝霧は1年生ながら剣道の大会で上位の成績をおさめている。試合中の凜々しさと、面を取ったときの愛くるしさのギャップがいいと評判だった。
「なんの用事だろ?」
わたしは気のないそぶりで封書を開封した。ミオにも見えるように便せんを広げると、そばにいた子たちも寄ってきた。
『とつぜん ごめんなさい
朝霧 優 といいます
単刀直入にいうと、つきあってください!
ぜんぶが好きになってしまいました
放課後、体育館にいるので、返事を聞かせてもらえればって、おもいます』
「正真正銘のラブレターじゃん」
「はじめて見た」
「やっぱ、そうだよね、レオナにいくよね」
キャーキャーと騒がれて、シーと唇に人差し指をあてる。
「おおごとにしたら、かわいそうだから」
みんなそわそわしながらも顔を見合わせて静かになった。行く末がどうなるのか、みんな気にかかっている。
恋の話はみんな大好きだ。
すきをついてミオがわたしの肩をつっついた。
「ってことは、返事は? ダメってこと?」
「ダメじゃないけど。考えたことなかったもん。いきなりすぎて、聞かれても困る」
告白されるのはうれしい。でも、正直いって悩んでいる。7MENのうちのひとりではあるけど、逆にいえばあと6人いるのだ。彼らもすごく魅力的だし、彼らのうちで誰と付き合うのが一番なのかって……それはさすがに自分のことを買いかぶりすぎか。
「とりあえずは様子見」
「友達からってことで?」
「まぁ、そうなるよね」
バッグの口を大きく広げて手紙をしまう。
すると、「ねぇねぇねぇ」と後ろから呼び止める声が聞こえてきた。
振り返るとそこにいたのは7MENのひとり、桜庭先輩だった。まくり上げた袖口から突き出ている腕は筋肉隆々で、手には似つかわしくないネコのマスコットを持っている。
「あ」と、わたしは自分のバッグを確認した。この前、クレーンゲームで取ったマスコット。欲しかったキャラクターもので、やっと手に入れたのだった。バッグの持ち手につけていたのにない。
桜庭先輩はマスコットがしゃべっているかのように小刻みに揺らした。
「落としましたよ?」
「すみませんっ。わたしのです」
わたしが手を差し出すと、桜庭先輩は白い歯を見せて表情を緩ませ、「はい」と手のひらにのせてくれた。
「ありがとうございます」
「これってあそこのクレーンゲームだよね」
桜庭先輩は近くにあるショッピングモールの名前をいった。クレーンゲームでしか入手できないことを知ってるとは、桜庭先輩もファンなのかな。
うれしくなってわたしは声を弾ませた。
「そうです」
「あれってけっこう難しいじゃん。今度教えてよ」
「そんなそんな。わたしもやっと取れたんですよ。教えるだなんて」
もじもじとしていたら、桜庭先輩はおどけた。
「デートの誘いのつもりだけど?」
「えっ」
「なんてね。近々記録会があるから応援にきてよ……って、これは半分本気かも」
桜庭先輩は最大級の笑顔を残し、ひらりと手を挙げて去って行った。
噂どおりのチャラさだけど憎めない。あんなイケメンにグイグイこられたら、そりゃあ、悪い気はしないし。
だけど――
「記録会か……」
気乗りせずにつぶやくと、ミオはわたしの気持ちを察した。
「日に焼けるよね」
そうなのだ。桜庭先輩は水泳部。水泳部は定期的に大会さながらタイムを計測するという。
うちの学校のプールは屋外だし、屋根もなくて炎天下のプールサイドで応援するなんて、考えただけで気が重い。
それでもプールサイドをギャラリーが埋め尽くすっていうんだから、桜庭先輩の人気は相当だ。
「そういえばミオって、応援に行ったことがあるっていってなかったっけ?」
「……あ、うん。あるよ」
「どんなかんじよ?」
「桜庭先輩が泳いで、プールからあがってきたら、みんなにハイタッチするの。それで、桜庭先輩のファンはみんな喜ぶんだけど、一線を越えたらいけないっていうか、桜庭先輩はみんなのものっていう不文律があるみたいで、近づきすぎたらたしなめられるんだよね。桜庭くんが迷惑してるよ、みたいな」
「こわっ」
わたしは身を震わせながら、内心笑っていた。
それは逆におもしろそうかも。大勢の中で自分だけが特別だったりしたら、周りの子たちから嫉妬されるんでしょう?
にやけてしまっていたのか、ミオに見透かされた。
「なんかたくらんでない?」
「もうひとつマスコット取ってこようかな」
「朝霧はどうすんの」
「友達からはじめるってことは、友達のまま終わるってこともあるわけで」
今の段階で一番なんて決められない。
別に付き合う約束をするわけじゃないんだし。
ミオはなにかいいたそうにしていたが、それ以上わたしに反抗することはなかった。
わたしと言い争っても、なんもいいことないものね。
階段を上って教室へ向かっていると、わたしの脇をものすごい勢いで駆け抜けていく人がいた。
その人は踊り場で方向転換するとさらに階段を上っていこうとした。
くるっとこちらに向いた顔をよく見れば塔屋くんだった。
2つ上の3年生で、小学生の時はボードゲームクラブで一緒だった。そのときから背が高くてかっこよく、面倒見もよくて人気者だった。
バチッと目が合うと、塔屋くんは足をとめた。
2年も顔を合わさないうちにすっかりおとなびいていて、ドキッとする。
「レオナちゃんじゃない?」
「……あ……はい……」
わたしにしてはめずらしく動揺してしまった。ドキドキしている。
「久しぶりだね。まさか、オレのこと覚えてないとか?」
「まさか! ボードゲームクラブで一緒だった塔屋……先輩、ですよね?」
小学生当時は「くん」づけで呼んでいたけど、中学生になってもなれなれしく「くん」づけでいいのか迷ってしまった。
「なんか、よそよそしいなぁ」
塔屋くんはそういって笑ってるけど、クラブだけの関わりで、それほど親しいというわけでもなく、やっぱり対応に戸惑う。
「そういえばさ、学区が一緒だったじゃん。八幡神社のお祭りがあるの知ってる?」
八幡神社はうちの近くにある小さな神社だ。年に一度のお祭りは地元の人が集まるだけの小規模だが、第一の鳥居から第二の鳥居まで通行止めにして出店が出る。家族や友達と毎年のように行っていた。
「まだ予定なければ一緒に行かない?」
「え……いいんですか」
遠慮気味に答える。
すると、塔屋くんは手すりに身を乗り出し、やさしい視線をおくってきた。
「いいに決まってるでしょ」
わたしだけしか見てなくて、胸が苦しくなってきた。
第一の鳥居に6時ねと待ち合わせ場所を告げると、またダッシュで階段を駆け上っていった。
見送って胸に手を当てる。
「今日のわたし、なんかヤバイ」
モテ期とか関係なく、ずっと日常的に愛されキャラって思ってたけど、それにしたって、こんなに続けざま誘われることなんて、めったにあるもんじゃない。
横でずっと見ていたミオが、「ねぇちょっと」といって、わたしの手を引いて踊り場の隅につれていく。
「塔屋先輩も7MENでしょ」
「そうだ……忘れてた」
ミオのいうとおり、塔屋くんも7MENのひとり。バレーボール部のアタッカーとして才能を爆発させていると、もっぱらの評判。
「これなんだけど……」
ミオはバッグからあのキラキラとしたカードを取り出した。
拾って自分の物にしてしまった手前、なんとなくこそこそとしてしまう。
「どうしたの?」
「文章が変わってる」
「え?」
ひっくり返してみると、こう書かれていた。
『白雪姫は 7人のこびとから 愛される』
「気づいたら、こうなってて。もしかしてだけど、物語が進んでいるんじゃない?」
「ええ? どういうこと?」
「白雪姫の物語だよ。白雪姫って、継母から嫉妬されるじゃない。魔法の鏡に問いかけると、この世で一番美しいのは白雪姫だって、それが気に入らなくて追い出しちゃうの。でも森に住んでる7人のこびとに救われて――って、物語が進んでいくでしょ。なんか、レオナがそれに巻き込まれているような気がして」
「いやいやいや、あるわけないって」
そういいつつ。奇妙な符合に、ありえるのかもって、ちょっと思ってしまった。
7人のこびとって、7MENに当てはまらない?
7人のこびとがイケメンってイメージはなかったけど、次々と声をかけられるってことは、そういうことかも。
「レオナのカードはどうなってるの」
「ええと……」
わたしは思い返していた。あれからどうしたっけ? 学校の帰りだったから、バッグに入れてそのままだったか。
わたしはバッグをさぐってカードを取り出した。
「あっ……!」
不思議なことに、わたしのカードも絵が変わっていた。
きのうは白雪姫だけしか描かれていなかったのに、そのまわりを7人のこびとが取り囲んでにぎやかな雰囲気になっている。
「どういう仕組みだろ? 時間が経つと変化するとか?」
わたしが表裏にカードを返して調べていると、ミオは首をかしげた。
「普通のカードにしか見えない。そんな仕組みがこの薄いカードに?」
「わかんない。でも気にすることないよ。だって、白雪姫ってハッピーエンドじゃん」
誕生日は二日後だから今日は持ってきてない。せっかく買ったんだから忘れないようにしないとね。
ミオとユキといつものメンツで学校に登校して、次々と見知った顔とあいさつをかわしていく。
学校に着いて靴箱にシューズをしまおうとすると、上履きの上になにかが乗っかっていることに気がついた。
手紙だ。
今どき手紙って思うけど、かえってその方がドキドキした。
それに、これ見よがしに置いてあるなんて、相手の度胸にも心つかまされる。
誰からだろう。ここで読むべきかな。
手紙を取り出して確認すると、間違えなくわたし宛てだった。裏に返すと『朝霧』と書いてある。
朝霧って、1年A組の、あの朝霧? 自然と口角が上がってしまう。
そばからのぞき込んだミオがはやしたてるようにいった。
「もしかして、7MENの朝霧?」
うちの中学で7MENと呼ばれている男子がいた。イケメンで女子からすっごくモテる、高スペックの7人。それぞれ部活動もしていて、レギュラーメンバーにだって選ばれている。試合がある日は動員かけなくても応援団が結成されてチームを盛り立てた。
朝霧は1年生ながら剣道の大会で上位の成績をおさめている。試合中の凜々しさと、面を取ったときの愛くるしさのギャップがいいと評判だった。
「なんの用事だろ?」
わたしは気のないそぶりで封書を開封した。ミオにも見えるように便せんを広げると、そばにいた子たちも寄ってきた。
『とつぜん ごめんなさい
朝霧 優 といいます
単刀直入にいうと、つきあってください!
ぜんぶが好きになってしまいました
放課後、体育館にいるので、返事を聞かせてもらえればって、おもいます』
「正真正銘のラブレターじゃん」
「はじめて見た」
「やっぱ、そうだよね、レオナにいくよね」
キャーキャーと騒がれて、シーと唇に人差し指をあてる。
「おおごとにしたら、かわいそうだから」
みんなそわそわしながらも顔を見合わせて静かになった。行く末がどうなるのか、みんな気にかかっている。
恋の話はみんな大好きだ。
すきをついてミオがわたしの肩をつっついた。
「ってことは、返事は? ダメってこと?」
「ダメじゃないけど。考えたことなかったもん。いきなりすぎて、聞かれても困る」
告白されるのはうれしい。でも、正直いって悩んでいる。7MENのうちのひとりではあるけど、逆にいえばあと6人いるのだ。彼らもすごく魅力的だし、彼らのうちで誰と付き合うのが一番なのかって……それはさすがに自分のことを買いかぶりすぎか。
「とりあえずは様子見」
「友達からってことで?」
「まぁ、そうなるよね」
バッグの口を大きく広げて手紙をしまう。
すると、「ねぇねぇねぇ」と後ろから呼び止める声が聞こえてきた。
振り返るとそこにいたのは7MENのひとり、桜庭先輩だった。まくり上げた袖口から突き出ている腕は筋肉隆々で、手には似つかわしくないネコのマスコットを持っている。
「あ」と、わたしは自分のバッグを確認した。この前、クレーンゲームで取ったマスコット。欲しかったキャラクターもので、やっと手に入れたのだった。バッグの持ち手につけていたのにない。
桜庭先輩はマスコットがしゃべっているかのように小刻みに揺らした。
「落としましたよ?」
「すみませんっ。わたしのです」
わたしが手を差し出すと、桜庭先輩は白い歯を見せて表情を緩ませ、「はい」と手のひらにのせてくれた。
「ありがとうございます」
「これってあそこのクレーンゲームだよね」
桜庭先輩は近くにあるショッピングモールの名前をいった。クレーンゲームでしか入手できないことを知ってるとは、桜庭先輩もファンなのかな。
うれしくなってわたしは声を弾ませた。
「そうです」
「あれってけっこう難しいじゃん。今度教えてよ」
「そんなそんな。わたしもやっと取れたんですよ。教えるだなんて」
もじもじとしていたら、桜庭先輩はおどけた。
「デートの誘いのつもりだけど?」
「えっ」
「なんてね。近々記録会があるから応援にきてよ……って、これは半分本気かも」
桜庭先輩は最大級の笑顔を残し、ひらりと手を挙げて去って行った。
噂どおりのチャラさだけど憎めない。あんなイケメンにグイグイこられたら、そりゃあ、悪い気はしないし。
だけど――
「記録会か……」
気乗りせずにつぶやくと、ミオはわたしの気持ちを察した。
「日に焼けるよね」
そうなのだ。桜庭先輩は水泳部。水泳部は定期的に大会さながらタイムを計測するという。
うちの学校のプールは屋外だし、屋根もなくて炎天下のプールサイドで応援するなんて、考えただけで気が重い。
それでもプールサイドをギャラリーが埋め尽くすっていうんだから、桜庭先輩の人気は相当だ。
「そういえばミオって、応援に行ったことがあるっていってなかったっけ?」
「……あ、うん。あるよ」
「どんなかんじよ?」
「桜庭先輩が泳いで、プールからあがってきたら、みんなにハイタッチするの。それで、桜庭先輩のファンはみんな喜ぶんだけど、一線を越えたらいけないっていうか、桜庭先輩はみんなのものっていう不文律があるみたいで、近づきすぎたらたしなめられるんだよね。桜庭くんが迷惑してるよ、みたいな」
「こわっ」
わたしは身を震わせながら、内心笑っていた。
それは逆におもしろそうかも。大勢の中で自分だけが特別だったりしたら、周りの子たちから嫉妬されるんでしょう?
にやけてしまっていたのか、ミオに見透かされた。
「なんかたくらんでない?」
「もうひとつマスコット取ってこようかな」
「朝霧はどうすんの」
「友達からはじめるってことは、友達のまま終わるってこともあるわけで」
今の段階で一番なんて決められない。
別に付き合う約束をするわけじゃないんだし。
ミオはなにかいいたそうにしていたが、それ以上わたしに反抗することはなかった。
わたしと言い争っても、なんもいいことないものね。
階段を上って教室へ向かっていると、わたしの脇をものすごい勢いで駆け抜けていく人がいた。
その人は踊り場で方向転換するとさらに階段を上っていこうとした。
くるっとこちらに向いた顔をよく見れば塔屋くんだった。
2つ上の3年生で、小学生の時はボードゲームクラブで一緒だった。そのときから背が高くてかっこよく、面倒見もよくて人気者だった。
バチッと目が合うと、塔屋くんは足をとめた。
2年も顔を合わさないうちにすっかりおとなびいていて、ドキッとする。
「レオナちゃんじゃない?」
「……あ……はい……」
わたしにしてはめずらしく動揺してしまった。ドキドキしている。
「久しぶりだね。まさか、オレのこと覚えてないとか?」
「まさか! ボードゲームクラブで一緒だった塔屋……先輩、ですよね?」
小学生当時は「くん」づけで呼んでいたけど、中学生になってもなれなれしく「くん」づけでいいのか迷ってしまった。
「なんか、よそよそしいなぁ」
塔屋くんはそういって笑ってるけど、クラブだけの関わりで、それほど親しいというわけでもなく、やっぱり対応に戸惑う。
「そういえばさ、学区が一緒だったじゃん。八幡神社のお祭りがあるの知ってる?」
八幡神社はうちの近くにある小さな神社だ。年に一度のお祭りは地元の人が集まるだけの小規模だが、第一の鳥居から第二の鳥居まで通行止めにして出店が出る。家族や友達と毎年のように行っていた。
「まだ予定なければ一緒に行かない?」
「え……いいんですか」
遠慮気味に答える。
すると、塔屋くんは手すりに身を乗り出し、やさしい視線をおくってきた。
「いいに決まってるでしょ」
わたしだけしか見てなくて、胸が苦しくなってきた。
第一の鳥居に6時ねと待ち合わせ場所を告げると、またダッシュで階段を駆け上っていった。
見送って胸に手を当てる。
「今日のわたし、なんかヤバイ」
モテ期とか関係なく、ずっと日常的に愛されキャラって思ってたけど、それにしたって、こんなに続けざま誘われることなんて、めったにあるもんじゃない。
横でずっと見ていたミオが、「ねぇちょっと」といって、わたしの手を引いて踊り場の隅につれていく。
「塔屋先輩も7MENでしょ」
「そうだ……忘れてた」
ミオのいうとおり、塔屋くんも7MENのひとり。バレーボール部のアタッカーとして才能を爆発させていると、もっぱらの評判。
「これなんだけど……」
ミオはバッグからあのキラキラとしたカードを取り出した。
拾って自分の物にしてしまった手前、なんとなくこそこそとしてしまう。
「どうしたの?」
「文章が変わってる」
「え?」
ひっくり返してみると、こう書かれていた。
『白雪姫は 7人のこびとから 愛される』
「気づいたら、こうなってて。もしかしてだけど、物語が進んでいるんじゃない?」
「ええ? どういうこと?」
「白雪姫の物語だよ。白雪姫って、継母から嫉妬されるじゃない。魔法の鏡に問いかけると、この世で一番美しいのは白雪姫だって、それが気に入らなくて追い出しちゃうの。でも森に住んでる7人のこびとに救われて――って、物語が進んでいくでしょ。なんか、レオナがそれに巻き込まれているような気がして」
「いやいやいや、あるわけないって」
そういいつつ。奇妙な符合に、ありえるのかもって、ちょっと思ってしまった。
7人のこびとって、7MENに当てはまらない?
7人のこびとがイケメンってイメージはなかったけど、次々と声をかけられるってことは、そういうことかも。
「レオナのカードはどうなってるの」
「ええと……」
わたしは思い返していた。あれからどうしたっけ? 学校の帰りだったから、バッグに入れてそのままだったか。
わたしはバッグをさぐってカードを取り出した。
「あっ……!」
不思議なことに、わたしのカードも絵が変わっていた。
きのうは白雪姫だけしか描かれていなかったのに、そのまわりを7人のこびとが取り囲んでにぎやかな雰囲気になっている。
「どういう仕組みだろ? 時間が経つと変化するとか?」
わたしが表裏にカードを返して調べていると、ミオは首をかしげた。
「普通のカードにしか見えない。そんな仕組みがこの薄いカードに?」
「わかんない。でも気にすることないよ。だって、白雪姫ってハッピーエンドじゃん」



