カワイイは正義。
この言葉、大好き。
だれもかれもが見た目で人を判断するなっていうけど、バッカみたい。
目をつむって想像してみて。
頭をポンポンってされて。あるいは、壁ドンでもいいよ。
それをやってきたのがキモい男子だったらどうする? それって、セクハラじゃん。
でも、ちょーカッコイイ男子だったらどうよ。胸キュンじゃない?
それが現実。異論は認めない。
鏡に映るわたしは今日もかわいかった。制服のリボンの形を整える。
顔を伏せても、口をムギュッとしても、どんな角度でもいけちゃう。学校のトイレだろうがそれは変わらない。
グラウンドでずっこけても、スカートの裾がドアに挟まろうとも、どんな瞬間だってわたしはかわいくしてみせるよ。
かわいくするコツ?
そうだね、それはたしかにあるかもしれない。だけどさ、努力したってムダってことはあるんだよね。
「レオナ、そのリップ、似合っててカワイイ」
わたしの後ろにひょこっと映るミオ。
中学生になってからの一番の友達。
短めの髪を耳の裏辺りでふたつに結っている。もともとコシのない髪質だからその髪型が一番似合っている、って教えたのはわたし。それを実践しちゃう無邪気な子だ。
そのリップが似合っているだって?
わたしはどんなリップだって似合ってるし、リップがなくてもかわいいけど。
でも、わかる。わたしに「かわいい~」っていわないと、嫉妬しているみたいでみじめだもんね。
ミオだってそこそこかわいいよ。かわいくなければ、一緒につれて歩けないし。ミオだってかわいいんだよ。
だけど、ちゃんと差はあるの。
わたしは鏡越しにジッとミオを見つめた。
妙な間が空いてちょっと不安げな顔をしている。
だいじょうぶだよ。そこまで間違ったことはいってない。
わたしは鏡の中で笑顔を見せた。
「でも、ミオだってかわいいよ」
「そんな」って、ひかえめに微笑むミオ。
わたしを超えられないことはわかってるみたいだから、かしこい子だ。張り合おうともしなくて、面倒なことが起こらない。
もっとも、わたしのことを一番カワイイっていってくれるのは、ミオだけじゃない。ユキもノンコもアマネだって。
ひそひそと男子が話しているのだって聞こえてくる。誰が一番かわいいか。わたしの名前を当然のように耳にする。
でもそれで満足するようなわたしじゃないから。
もっともっと。
「一番だよ」っていってくれる人が増えていったら。
そのときは本当にこの世で一番カワイイって認められることになる。
「ねぇねぇ」
ミオはひそひそとわたしの耳元に寄ってささやく。
「今日さ、誕プレ買いに行かない?」
「誕プレ?」
「ユキの誕生日が近いじゃん」
そうだったっけ? 忘れてた。
ミオはそういうことをきちんと覚えていて、抜け駆けせずにちゃんと教えてくれる。
「ユキは今日、部活だから。サプライズで用意しておこうよ」
「そうだね」
顔を見合わせて微笑み合い、わたしはミオの腕に手を通し、仲がいい振る舞いをして教室に戻っていった。
放課後、駅の方まで歩いて行くときだった。
ちょっと汗ばむ陽気で本当は乗り気じゃなかったけど、今日しかないからしょうがない。誕プレとか、そういうの、大事だから。
愛されるって、双方向だと思うの。
嫉妬って、怖いし。
かわいいことが足かせになるって、つらいよね。
だから、早くクーラーが効いてるお店にたどり着きたかったんだけど、ミオったら、通りの生け垣を気にするように足をとめた。
「なんだろ」
腰の高さくらいにこんもりと生い茂っているツツジの植え込みから、カードのような物を拾い上げた。
トランプより少し大きめだろうか。白地に黒い文字が書いてある。戸惑いながらそれをミオが読み上げた。
『白雪姫は この世で一番カワイイと 鏡はいいました』
「なにこれ?」
ミオがカードを裏に返すと、万華鏡のように、色とりどりの小さな破片がキラキラとちりばめられていた。
そのとき、何かが植え込みの中で光った気がして、わたしはそちらに視線を移した。
もしかしたら同じ物だろうか。
なぜだか気になってわたしはそれを拾った。やはり、同じようにキラキラしたカードだった。
表に返すと、こちらは絵だった。ステンドグラスとでもいうのか、切り絵のような図案。ティアラをつけ、ドレスを着たお姫さまが横向き描かれている。顔のパーツは省略されているけど、きっと美しいんだろうなって、想像力がかき立てられた。
そして右上の角には、丸で囲んだひらがなの「し」が表記してある。
「し……? このお姫さまって、白雪姫のことかな?」
わたしがいうと、ミオは興奮したように自分が持っているカードを寄せた。
「ここにも白雪姫って書かれてる!」
「対になってるのかな」
「そうだよ。カルタなんじゃない?」
「だったら、ほかにもあったりして」
わたしとミオは植え込みを探ってみたが、ほかにはなにも落ちていなかった。
あらためてカードを見ると、ほんとうにキラキラとしてきれいだった。小さいころ遊んだカルトとは大違い。こんなのだったら、いつまでも持っていたい。
「おとぎ話をテーマにしたカルタかな」
ミオがカードをしげしげと見ながらいった。
「そっか! 『あ』だったら、『赤ずきんちゃん』とか?」
思いつきでわたしがいうと、続けてミオもいった。
「『い』っだったら、『イソップ童話』かな」
「それはちょっと広すぎ。『一寸法師』があるよ」
「そうだね、すごい! ほかのも気になるね」
「だけど、なんでこんなところにこれだけが……」
上を見上げたら、そばには高層マンションが建っていて、そこからあやまって落ちてきたのかもしれない。
本当だったら、マンションの管理人さんに預けるとかしなくちゃいけないんだろうけど、手放したくなくなっていた。
それはミオもそうだったようで、カードをピタッと両手ではさみこんだ。
「持ち主が見つかるまで持っててもいいよね?」
「そうだよね。ここにおいていたら汚れるもんね」
わたしもミオと同じように両手ではさんでカードを隠した。
自分一人だったらもっと悩んでいたと思う。でも、ミオもそういってるし、平気だよ。盗んだわけじゃないし。大丈夫。
わたしとミオ、ふたりだけの秘密にして早々にその場を立ち去った。
この言葉、大好き。
だれもかれもが見た目で人を判断するなっていうけど、バッカみたい。
目をつむって想像してみて。
頭をポンポンってされて。あるいは、壁ドンでもいいよ。
それをやってきたのがキモい男子だったらどうする? それって、セクハラじゃん。
でも、ちょーカッコイイ男子だったらどうよ。胸キュンじゃない?
それが現実。異論は認めない。
鏡に映るわたしは今日もかわいかった。制服のリボンの形を整える。
顔を伏せても、口をムギュッとしても、どんな角度でもいけちゃう。学校のトイレだろうがそれは変わらない。
グラウンドでずっこけても、スカートの裾がドアに挟まろうとも、どんな瞬間だってわたしはかわいくしてみせるよ。
かわいくするコツ?
そうだね、それはたしかにあるかもしれない。だけどさ、努力したってムダってことはあるんだよね。
「レオナ、そのリップ、似合っててカワイイ」
わたしの後ろにひょこっと映るミオ。
中学生になってからの一番の友達。
短めの髪を耳の裏辺りでふたつに結っている。もともとコシのない髪質だからその髪型が一番似合っている、って教えたのはわたし。それを実践しちゃう無邪気な子だ。
そのリップが似合っているだって?
わたしはどんなリップだって似合ってるし、リップがなくてもかわいいけど。
でも、わかる。わたしに「かわいい~」っていわないと、嫉妬しているみたいでみじめだもんね。
ミオだってそこそこかわいいよ。かわいくなければ、一緒につれて歩けないし。ミオだってかわいいんだよ。
だけど、ちゃんと差はあるの。
わたしは鏡越しにジッとミオを見つめた。
妙な間が空いてちょっと不安げな顔をしている。
だいじょうぶだよ。そこまで間違ったことはいってない。
わたしは鏡の中で笑顔を見せた。
「でも、ミオだってかわいいよ」
「そんな」って、ひかえめに微笑むミオ。
わたしを超えられないことはわかってるみたいだから、かしこい子だ。張り合おうともしなくて、面倒なことが起こらない。
もっとも、わたしのことを一番カワイイっていってくれるのは、ミオだけじゃない。ユキもノンコもアマネだって。
ひそひそと男子が話しているのだって聞こえてくる。誰が一番かわいいか。わたしの名前を当然のように耳にする。
でもそれで満足するようなわたしじゃないから。
もっともっと。
「一番だよ」っていってくれる人が増えていったら。
そのときは本当にこの世で一番カワイイって認められることになる。
「ねぇねぇ」
ミオはひそひそとわたしの耳元に寄ってささやく。
「今日さ、誕プレ買いに行かない?」
「誕プレ?」
「ユキの誕生日が近いじゃん」
そうだったっけ? 忘れてた。
ミオはそういうことをきちんと覚えていて、抜け駆けせずにちゃんと教えてくれる。
「ユキは今日、部活だから。サプライズで用意しておこうよ」
「そうだね」
顔を見合わせて微笑み合い、わたしはミオの腕に手を通し、仲がいい振る舞いをして教室に戻っていった。
放課後、駅の方まで歩いて行くときだった。
ちょっと汗ばむ陽気で本当は乗り気じゃなかったけど、今日しかないからしょうがない。誕プレとか、そういうの、大事だから。
愛されるって、双方向だと思うの。
嫉妬って、怖いし。
かわいいことが足かせになるって、つらいよね。
だから、早くクーラーが効いてるお店にたどり着きたかったんだけど、ミオったら、通りの生け垣を気にするように足をとめた。
「なんだろ」
腰の高さくらいにこんもりと生い茂っているツツジの植え込みから、カードのような物を拾い上げた。
トランプより少し大きめだろうか。白地に黒い文字が書いてある。戸惑いながらそれをミオが読み上げた。
『白雪姫は この世で一番カワイイと 鏡はいいました』
「なにこれ?」
ミオがカードを裏に返すと、万華鏡のように、色とりどりの小さな破片がキラキラとちりばめられていた。
そのとき、何かが植え込みの中で光った気がして、わたしはそちらに視線を移した。
もしかしたら同じ物だろうか。
なぜだか気になってわたしはそれを拾った。やはり、同じようにキラキラしたカードだった。
表に返すと、こちらは絵だった。ステンドグラスとでもいうのか、切り絵のような図案。ティアラをつけ、ドレスを着たお姫さまが横向き描かれている。顔のパーツは省略されているけど、きっと美しいんだろうなって、想像力がかき立てられた。
そして右上の角には、丸で囲んだひらがなの「し」が表記してある。
「し……? このお姫さまって、白雪姫のことかな?」
わたしがいうと、ミオは興奮したように自分が持っているカードを寄せた。
「ここにも白雪姫って書かれてる!」
「対になってるのかな」
「そうだよ。カルタなんじゃない?」
「だったら、ほかにもあったりして」
わたしとミオは植え込みを探ってみたが、ほかにはなにも落ちていなかった。
あらためてカードを見ると、ほんとうにキラキラとしてきれいだった。小さいころ遊んだカルトとは大違い。こんなのだったら、いつまでも持っていたい。
「おとぎ話をテーマにしたカルタかな」
ミオがカードをしげしげと見ながらいった。
「そっか! 『あ』だったら、『赤ずきんちゃん』とか?」
思いつきでわたしがいうと、続けてミオもいった。
「『い』っだったら、『イソップ童話』かな」
「それはちょっと広すぎ。『一寸法師』があるよ」
「そうだね、すごい! ほかのも気になるね」
「だけど、なんでこんなところにこれだけが……」
上を見上げたら、そばには高層マンションが建っていて、そこからあやまって落ちてきたのかもしれない。
本当だったら、マンションの管理人さんに預けるとかしなくちゃいけないんだろうけど、手放したくなくなっていた。
それはミオもそうだったようで、カードをピタッと両手ではさみこんだ。
「持ち主が見つかるまで持っててもいいよね?」
「そうだよね。ここにおいていたら汚れるもんね」
わたしもミオと同じように両手ではさんでカードを隠した。
自分一人だったらもっと悩んでいたと思う。でも、ミオもそういってるし、平気だよ。盗んだわけじゃないし。大丈夫。
わたしとミオ、ふたりだけの秘密にして早々にその場を立ち去った。



