教科書を見ながら、課された宿題の答えをノートに書く彩姫の筆記音は、しずかなリビングに一定のリズムで ひびいていた。

 しかし しばらくすると、彩姫はシャープペンシルの頭をあごに当てて、「うーん」と小さくうなりながら眉根を寄せる。

 彩姫の背後でスッと目を開けた王賀は、顔を横に向けてテーブルの上をながめた。




「…この問題は、ここを分解して考えるんだ。そうすれば、なにを答えればいいか、かんたんに わかるだろ?」


「あぁ!」




 衣擦(きぬず)れの音を立てながら体を起こし、彩姫の肩越しにノートを指さして、王賀は()だるげな声を落とす。

 彩姫はノートにシャープペンシルを走らせてから、振り向いて花が咲くような笑みを浮かべた。




「ありがとう、王賀くん」


「ん」