シワひとつないスーツに身を包んだ運転手へ、ニコリと笑いかけたあと、彩姫は足取り軽くエントランスに入る。
コンシェルジュとあいさつを交わし、エレベーターに乗りこんだ彩姫は、4、5、と上階が近づくにつれて、落ちつきなくカバンを持ちなおした。
チン、と音を鳴らして目的の階への到着を告げたエレベーターの扉が開くと、彩姫は早足で、この階に1つしかない玄関扉へと近づく。
カチャ、と玄関を開けてから、かわぐつを脱ぎ、リビングにかけこむまで、彩姫は15秒もかけなかった。
「ただいま、王賀くん!」
探し当てた宝物を前にしたように、目をキラキラさせる彩姫の視線の先には、白いかわのソファーに背中を沈め、ひじ置きに足を投げ出した男子の姿がある。
ブレザーの前を開き、第二ボタンが見える瀬戸際でネクタイを締め、ベルトをしたズボンからYシャツのすそがチラリと出ているだらしない格好。
に、加えて、口元にそえた手で隠しきれないほど、大口を開けてあくびをしていた彼は、寝転がったまま彩姫を見た。



