【SS】本物王子には敵わない



 きょとんとする彩姫をよそに、王賀はイスから立ち上がって、テーブルのふちをなぞるように歩く。

 一歩一歩近づいてくる王賀を見ながら、先ほどの言葉を理解した彩姫は、顔を真っ赤にしてあたふたと手を振った。




「お、王賀くん、待っ…!」


「はい、お口チャック」




 彩姫のあごにふれ、イジワルに目を細める王賀を見て、彩姫は思わず口を閉じる。

 ふっと笑みをこぼした王賀は、まぶたを閉じて彩姫に――…キスをした。




「お、おおお、王賀、くん…っ」


「彩姫は昔からずっと、俺のお姫さまだ。…これからもちゃんと、“お姫さま”でいるよーに」




 王賀は、今にも湯気を出しそうな彩姫に近づき、コツンとひたいを合わせてほほえむ。

 ぐるぐると目を回しながら、彩姫は「は、はい…っ」と上擦(うわず)った声で答えた。


 あこがれの男の子のように、かっこいい王子さまを目指した1人の女の子。

 しかし…本物の王子さまには、(かな)わなかったようだ。




fin.