シェリーナはきっと私が言い返すのを待ってるんだと思う。
私に汚い言葉を吐かせて、完全な悪者に仕立て上げたいのだろう。
だから、私は常に無言で俯きながら聞き流していた。
本当は最初の挨拶をしたらそそくさと立ち去りたいんだけど、シェリーナについている侍女たちに阻まれて逃げられないんだよね…。

毎日の嫌味にさすがに疲れて、自室にこもった日もあったんだけど、なんとシェリーナはわざわざ私の部屋にやってきた。

「妊娠もされていないのにお部屋から出ないなんて、一体なんのアピールなんですの?デルバートの気を引こうとしても無駄ですのよ」

部屋に来てしまったからにはもてなすしかない…。
そう思って侍女にお茶の準備を頼んでいる間に、シェリーナは言いたいことをぶちまけて早々に部屋から出て行ってしまった。
短い災難で済んだと思いきや、シェリーナは「アリステラが自分を部屋に呼び出し、お茶も出さずに嫌味を言って追い出した」という嘘のウワサを流した。

これに腹を立てたのがデルバートだ。
彼は別邸生活で初めて私の部屋を訪れ「シェリーナに謝罪しろ」と私の腕を掴んだ。
「そのウワサは嘘です」と訴えてみたが「シェリーナを嘘つき呼ばわりするのか!」と激高されるだけだった。
そもそも、デルバートがシェリーナより私の発言を信じるはずないんだわ…。
結局、そのままデルバートに腕を掴まれシェリーナの部屋へ連れていかれた私は、2人が満足するまで謝罪を強要された。
デルバートに掴まれた腕の部分が、今もうっすら赤く腫れている。
それ以来、私はデルバートに意見することを諦めた。

デルバートとシェリーナから攻撃されないよう、神経をとがらせてピリピリしていた私が唯一ホッとできるのは、屋敷の仕事をしているときだった。
2日に1回、ギルとエミリーが代わる代わるやってきて、私の指示をもらいにくる。
書類もマメに持ってきてくれ、私が決裁のサインをすると労ってくれる。
あと何か月も屋敷に戻れないのに、運営について意見を聞いてくれるし、採用もしてくれる。
「お屋敷にお戻りになられるのを、使用人一同お待ちしております!」と言ってくれる。
優しくて理性的なギルとエミリーが心のオアシスだった。