「何を騒いでいるんだ」

そこへデルバートが現れた。

「デルバート!」

嬉しそうに彼に駆け寄るシェリーナ。

「聞いて!アリステラ様ったら酷いのよ!私をいじめるの!」

いやいじめてないし、そもそも挨拶以外一言も発してないってば。
思わず首を横にブンブンと振ってしまった。
周囲の使用人たちは、当然口をつぐんでいる。

「なに!?」

シェリーナを抱きとめて私を睨むデルバート。
こっっっわ…。

「きっとアリステラ様は私に嫉妬してるんですわ!」

そんなわけない。という言葉を飲み込む私。
シェリーナの複雑で哀れな境遇になぜ嫉妬しなければいけないの?

「アリステラ。シェリーナを侮辱する言動は許さない」

デルバートは低い声で私に忠告した。
だから何もしてないってば。

「おまえたちも、アリステラがシェリーナになにかしたら、すぐ私に報告しろ」

使用人たちにそう伝えると、デルバートは私に背を向け、シェリーナと食堂を出て行った。
扉が閉まる寸前で、シェリーナのほくそ笑んだ顔が見えた。

「ふぅ…」

思わずため息が出た。
初対面の愛人にいきなり怒鳴りつけられ、夫からは脅しのような発言をされ、疲れてしまった。

それにしても…デルバートって愛人の前では理性がなくなるタイプだったんだ…。
私の言い分を聞く気ゼロで、シェリーナだけを妄信している。
屋敷にいたときはもう少し冷静な人だと思っていたので驚いちゃった。
恋は盲目なのだろうか。

使用人たちは気まずそうにしている。
それが居たたまれなくて、残りの夕食を自室に運んでもらうようお願いした。