航大の手を握ったあの瞬間から、私の世界は色を変えた。
「好きだ」という言葉は、まだ口に出していない。でも、私の心の中では、その言葉が何度も何度も繰り返されていた。
(航大くんの完璧な笑顔は、過去の失敗を隠すための仮面だったんだ……)
彼の不器用な優しさも、細やかな配慮も、すべては過去の傷から生まれたものだった。
私は、そんな臆病で孤高な彼を、心の底から愛おしいと思った。

「よし! 『タイムワープ装置』、作ってみよう!」

翌日の生徒会会議で、私は力強くそう宣言した。
航大は驚いたように目を見開く。
「優菜さん、本当に大丈夫ですか? あの企画は、複雑で、失敗する可能性も……」
「大丈夫です! 航大くんの完璧な計画力と、私の空想的な発想があれば、きっと成功させられます!」
私は、航大の過去を乗り越えるため、そして彼に自信を持ってもらうため、あえて彼の企画を推し進めた。

佑は「おお、優菜やるじゃん!」と拍手し、瑞貴は「フン、その意気だわ」とニヤリと笑った。朱音と秀太も、優菜の意欲的な姿を応援してくれた。
航大は、そんな生徒会メンバーたちの様子を見て、困ったように微笑んだ。
(みんな……私の無自覚な恋心に、気づいているのかな……?)
私は、恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じた。

放課後、私は航大と共に、タイムワープ装置の製作に取り掛かった。
「この装置は、宇宙人が残していった謎の機械、という設定にしましょう。そして、このレバーを引くと、光と音と共に、未来へとワープするんです!」
私は、スケッチブックに、奇想天外なデザインを描いていく。
「なるほど……。この光と音の演出は、僕が担当しよう。この回路を使えば……」
航大は、私の空想を、現実の技術へと落とし込んでいく。

完璧主義の航大は、少しでも失敗があると、すぐに顔を曇らせた。
「ダメだ……この回路では、光が弱すぎる。もっと明るく、もっと派手にしないと……」
「大丈夫だよ、航大くん! 私たちの空想は、もっともっと壮大なんだから! もっと大きな光を、もっと派手な音を鳴らそうよ!」
私はそう言って、航大の手を握った。
(……優菜さん)
航大は、驚いた顔で私を見つめる。
彼の顔は、完璧な生徒会長の顔ではなく、ただの不器用な男の子の顔だった。

「航大くん。過去に失敗したからって、臆病になる必要はないよ。もし、また失敗しそうになったら……私が、航大くんの手を引いてあげるから」
私の言葉に、航大は何も言わなかった。ただ、私の手を、しっかりと握り返してくれた。
その夜、生徒会室で二人きりになった私たちは、夜遅くまでタイムワープ装置の製作に没頭した。
航大は、私にだけ、過去の失敗の時の辛かった気持ちを、少しだけ話してくれた。
(航大くん……私の前では、二面性を隠さなくてもいいんだよ)
私は、そう思いながら、彼の話に耳を傾けた。

「優菜さん……ありがとう」
航大は、そう言って、私に微笑んだ。
その笑顔は、いつもの完璧な笑顔ではなく、心の底から笑っている、本物の笑顔だった。
(あぁ……私、航大くんのこの笑顔が見たかったんだ……!)
私の胸は、幸福感でいっぱいになった。

この両片想いは、もうすぐ、不器用なまま、新しい一歩を踏み出そうとしていた。