「優菜、おつかれさま! 避難訓練、大成功だったね!」
放課後、生徒会室で片付けをしていると、朱音がにこやかな笑顔で話しかけてきた。
「ありがとう、朱音ちゃん。でも、佑くんの件はちょっとヒヤヒヤしたよ」
「うん……でも、航大くんがうまく対応してくれて、よかったよね。さすが、航大くんだなって思った」
朱音の言葉に、私は複雑な気持ちになった。
(航大くんの、あの冷たい顔……あれが、航大くんの本当の顔なのかな……?)
航大の完璧な笑顔の裏に隠された二面性が、私の頭から離れなかった。

「なぁ、優菜。柊会長ってさ、昔からああいう感じだったのかな?」
秀太が、静かに話しかけてきた。
「秀太くん、どういうこと?」
「いや、なんか……完璧すぎるというか、なんというか。佑が暴走した時、いつもと違う雰囲気だっただろ? 俺、ちょっとびっくりしてさ……」
秀太の言葉に、私は頷いた。
「わかる……私も、驚いた。あの顔は、生徒会長の顔じゃなかったよね」
「うん。なんか、すごく孤高な感じがした。一人で全部を背負い込んでいるような……」
秀太の言葉は、私の心をざわつかせた。

その日の夜、私は航大の過去について調べることにした。
(何か、手がかりはないかな……)
私は、学園の図書館に向かい、過去の生徒会の記録を片っ端から読み漁った。
しかし、航大に関する情報は、何も出てこない。彼は、まるで突然この学園に現れたかのように、記録には残されていなかった。

(どうして……? 航大くんは、この学園の伝説なのに……)
私は途方に暮れ、図書館の隅で頭を抱え込んだ。
その時、背後から声が聞こえた。
「桜井さん、こんな夜遅くに、何をしているんだ?」
「ひっ! 航大くん!?」
振り返ると、そこには航大が立っていた。
「驚かせてしまって、すまない。僕も、次の企画のことで、少し調べ物をしていたんだ」
航大はそう言うと、私の隣に座った。
「どうしたんだ? そんなに深刻な顔をして」
「えっと……航大くんって、本当にこの学園にいたのかなって……」
私の言葉に、航大はわずかに目を見開いた。
「どういう意味だ?」
「だって、航大くんの過去の記録が、全然見つからないんだもん。生徒会にも、図書館にも……」
私の言葉に、航大は苦笑いを浮かべた。

「そうか。実は……僕、一年生の時に、生徒会に入ろうと思ったんだ。でも、その時……」
航大は、言葉を濁した。
「その時、どうしたの?」
「……いや、なんでもない。とにかく、僕は昔から、あまり目立つことが好きじゃなくてね。だから、記録には残っていないんだ」
航大はそう言うと、立ち上がった。
「もう遅い。帰りましょう、桜井さん」
航大は、そう言って私の手を取り、図書館を出た。
(航大くん……何か隠してる……?)
私は、航大の二面性に、さらに深く踏み込んでいくことを決意した。
彼の完璧な笑顔の裏にある秘密を、私はどうしても知りたいと思った。

「航大くん……もし、何か辛いことがあったら、いつでも話してね。私、航大くんの話をじっくり聞くのが得意だから」
私の言葉に、航大は足を止め、私の方を向いた。
「桜井さん……」
航大の顔は、驚きと、そして少しの悲しみに満ちていた。
(やっぱり、何かあったんだ……)
私は、航大の隠された過去に、少しだけ触れたような気がした。

この無自覚な両片想いは、二人だけの秘密を探す旅へと変わっていく。