「皆さん、落ち着いてください! これは訓練です!」

校内放送室から響く航大の冷静な声に、生徒たちは校庭に集まってきた。
手には、佑がデザインした「勇者の剣」と、瑞貴がデザインした「脱出キー」が握られている。
しかし、その表情はどこか楽しそうだ。
(私の空想が、生徒たちの心を掴んでる……!)
私は、生徒たちの楽しそうな顔を見て、胸が高鳴った。

「では、第一ミッション! 校内に隠された『脱出キー』を探してください!」

航大の合図で、生徒たちは一斉に校内に散らばっていく。
私は、航大と共に校内放送室で生徒たちの様子をモニターで見ていた。
「桜井さん、今日の避難訓練、成功しそうですね」
航大はそう言って、満足そうに微笑んだ。
(航大くんが笑ってる……! 嬉しい……!)
私の胸は、航大の笑顔でいっぱいになる。

しかし、その時だった。
「会長! 大変です!」
書記の朱音が慌てて放送室に飛び込んできた。
「どうしたんだ、朱音?」
「佑くんが……佑くんが、放送室に飛び込んできて、『俺が宇宙人を撃退する!』って、大声で叫んでるんです!」

航大は一瞬、顔色を変えた。
「高橋くんが? なぜ……」
モニターを見ると、確かに佑が、放送室のドアをこじ開けようとしている。
「俺がヒーローになるんだ! この生徒会なんて関係ない! 宇宙人、出てこい!」
佑の叫び声が、校内に響き渡る。
生徒たちは、何が起こっているのかわからず、ざわつき始めた。
「航大くん……どうしよう……」
私はパニックになった。

その時、航大の顔から、いつもの穏やかな笑顔が消えた。
「桜井さん、君はここにいてください」
航大はそう言うと、静かに立ち上がり、放送室のドアへと向かった。
(航大くん……?)
彼の背中は、いつもの極上男子のそれとは違っていた。まるで、別の誰かになったかのように、冷たいオーラを放っている。
(これが……航大くんの、二面性……?)

航大は、放送室のドアを開け、佑の前に立った。
「高橋佑。今すぐ、その行動をやめなさい」
その声は、氷のように冷たく、佑の行動を凍りつかせた。
「ひ、柊会長……」
「君がヒーローになりたい気持ちはわかる。でも、この企画は、僕と、そして生徒会の皆で作り上げたものだ。君だけのものじゃない」

航大の言葉に、佑は顔を青くした。
「生徒を混乱させ、企画を台無しにする行為は、生徒会長として、見過ごすことはできない」
航大はそう言って、佑の肩を掴んだ。
「す、すみません……」
佑は、航大の冷たい声と眼差しに、すっかり意気消沈してしまった。

航大は、佑を連れて、再び放送室に戻ってきた。
「朱音、彼を別室で落ち着かせてあげてくれ。秀太、君は彼に寄り添って話を聞いてあげてほしい」
航大はそう言って、朱音と秀太に指示を出す。
「はい!」
二人は、航大の言葉に従い、佑を連れて放送室を出ていった。

航大は、再び私の方を向いた。
その顔には、いつもの穏やかな笑顔が戻っていた。
「桜井さん、驚かせてしまって、ごめんなさい。でも、これで大丈夫です」
(大丈夫……?)
私には、航大が本当に大丈夫なのか、わからなかった。
彼の二面性を目の当たりにし、私は、彼の完璧な笑顔の下に隠された、もう一つの顔を垣間見た気がした。

この腹黒な航大くんに、私は本当に無自覚なまま、恋をしてしまっているのだろうか。