「よし、ではまず『宇宙人襲来』を演出するための小道具を準備しましょう」
航大の言葉に、生徒会室の空気が引き締まる。
佑は「勇者の剣」と書かれたデザイン画を、瑞貴は「脱出キー」と書かれたデザイン画をそれぞれ航大に見せる。
「俺の剣は、やっぱり煌びやかな方がいいだろ? 宇宙人に俺のヒーロー性をアピールするためにも」
「あんたのヒーロー性なんて誰も期待してないわよ。脱出キーは、もっとクールで、メカニカルなデザインにすべき」
二人の言い争いに、航大は困ったように微笑む。
「優菜さん、何かアイデアはありますか?」
航大は、またしても私に救いの手を求めてきた。
(小道具……小道具かぁ……)
私の頭の中では、タコ型宇宙人たちが使う宇宙船の姿が広がっていた。
(タコ型宇宙人は、イカ型の宇宙船に乗ってやってくる。で、その宇宙船からは、スルメを焼くような香ばしい匂いが漂ってくるの。そして、その匂いに惹かれて、生徒たちが……)
「優菜さん?」
「は、はい! えーっと……」
私が言葉に詰まっていると、航大は私の顔をじっと見つめ、優しく微笑んだ。
「君の空想的な発想なら、きっと何か面白いアイデアが浮かぶはずです。心配いりません。不器用な僕が、ちゃんとサポートしますから」
航大の言葉に、私の胸はまたしても甘く締め付けられる。
(不器用って、言ってるけど、航大くんは全然不器用なんかじゃない。生徒会長として完璧すぎる。きっと、私を励ますために、わざとそう言ってくれているんだ……)
私は、航大の細やかな配慮に感謝しながら、自分の空想を口にした。
「その……宇宙船から、イカ焼きの匂いがする、というのはどうでしょう?」
「イカ焼き?」
航大は一瞬、眉をひそめたが、すぐに真剣な顔つきに戻った。
「なるほど。聴覚だけでなく、嗅覚に訴えることで、よりリアルな『宇宙人襲来』を演出するわけですね。素晴らしいアイデアです!」
航大はそう言って、佑と瑞貴に指示を出す。
「高橋くんは、イカ焼きの匂いをどうやって演出するか、瑞貴さんは、その匂いをどうやって校内に拡散させるか、考えてみてください」
佑と瑞貴は、互いに顔を見合わせ、不満そうにしながらも、そのアイデアに乗り気になった。
会議が終わり、私と航大は二人きりになった。
「優菜さん。今日の企画会議、楽しかったですね」
航大はそう言って、また私にいちごミルクを差し出した。
「あ、ありがとうございます……でも、どうして、私の好きな飲み物を……?」
「……僕が君に、無自覚に惹かれているから、かもしれませんね」
「えっ?」
航大の言葉に、私の心臓は飛び跳ねた。
しかし、航大はすぐにニヤリと笑うと、私の肩をぽんと叩いた。
「なーんて、冗談ですよ。君がいつもこれを飲んでいるのを、偶然見かけただけです。さあ、帰りましょう」
航大はそう言って、私を生徒会室から促した。
(じょ、冗談……? でも、今の航大くん、いつもと全然違う顔をしてた……)
私は、航大が二面性を持っているのではないかと、密かに疑い始めた。
完璧超人の生徒会長の顔と、そして、今私に見せた、少しだけ意地悪な、それでいて魅力的な顔。
(もしかして……航大くんって、腹黒いのかな?)
私の空想は、またしてもあらぬ方向へと暴走を始めた。



