「宇宙人襲来……宇宙人襲来……」

私は生徒会室の机に突っ伏して、唸っていた。
手元には、航大から渡された「放送原稿用紙」。真っ白なその紙は、私のプレッシャーをさらに増幅させる。
航大に期待された「ユニークな原稿」とは、一体どんなものなのだろうか。

「優菜、大丈夫?」

朱音が心配そうな顔で声をかけてくれた。
「う、うん……でも、全然書けなくて。航大くんの期待に応えられるか、心配で……」
「大丈夫だよ! 優菜の空想的な発想なら、きっと面白い原稿が書けるよ。それに、もし失敗しても、みんなでカバーすればいいんだから」
朱音の優しい言葉に、私の心は少し軽くなった。

「そうだ。優菜、ちょっとお茶でも飲んで、リラックスしなよ」
佑がそう言って、温かいミルクティーを差し出してくれた。
「ありがとう、佑くん」
「どういたしまして。俺が優菜に助けられるのは、宇宙人だけじゃないからね!」
佑の言葉に、思わず笑ってしまった。

その日の夜、私は自室で必死に原稿と格闘していた。
(宇宙人襲来予告……宇宙人が、地球にメッセージを送ってくる、って設定にしようかな……)
私の頭の中に、壮大な宇宙の光景が広がっていく。
(宇宙人は、緑色のタコ型生命体で、地球のクリーンな空気に興味を持ってやってきた。でも、地球の人間は、空気を汚すばかりで……だから、地球をリセットしようとしている、とか?)
そんなことを考えているうちに、私はどんどん空想の世界に没入していった。
気がつけば、原稿用紙には、奇想天外なストーリーがびっしりと書き込まれていた。
私は、それを航大に見せるのが怖くなり、そのまま力尽きて眠ってしまった。

翌朝。
私は、昨夜書いた原稿を恐る恐る航大に差し出した。
航大は、それを黙って受け取ると、じっくりと読み始めた。
その間、私は心臓が口から飛び出しそうなほど緊張していた。
(やばい、絶対に変な原稿だと思われてる……)

航大は、しばらくして顔を上げた。
「……優菜さん。これは、素晴らしいです」
「えっ!?」
「ただの避難訓練ではなく、環境問題へのメッセージも込められている。それでいて、奇想天外で面白い。まさに、僕が期待していた通りです」

航大の言葉に、私は安堵のあまり涙が出そうになった。
「あ、ありがとうございます……」
「では早速、放送室に行って、この原稿を読み上げてみましょう。校内放送を使って、全校生徒に伝えます」
「えっ、今すぐですか!?」
私は心の準備ができていなかった。
航大は私の戸惑いには気づかず、私の手を取り、放送室へと向かった。
(ひええ! 手、手をつないでる!? これって、もしかして……! いや、違う、これも細やかな配慮だわ。私が緊張しないように、気を使ってくれているんだ。不器用な航大会長なりの、優しさなんだ……)
私は、そう自分に言い聞かせながら、航大の手の温かさを感じていた。

放送室に到着すると、航大は優しくマイクを私に手渡した。
「大丈夫。君ならできる」
彼の言葉に勇気づけられ、私はマイクに向かって話し始めた。
最初は声が震えていたが、物語に没入していくうちに、私の声はどんどん力強くなっていった。

『……地球の皆さん、ごきげんよう。私たちは、遠い銀河からやってきた、緑色のタコ型生命体です』

私の原稿は、放送室に響き渡った。
生徒たちは、突然の放送に戸惑いながらも、耳を傾けている。
『私たちの故郷は、クリーンな空気で満ち溢れていました。でも、ある日、私たちの惑星は、人間たちの排気ガスで汚染されてしまったのです。そこで私たちは、人間たちに教えを乞うべく、地球にやってきました……』
私が原稿を読み終えると、放送室には拍手が起こった。

「素晴らしいです! 優菜さん!」
航大が興奮したように私を褒めてくれた。
(あぁ……やっぱり航大会長は、生徒会の副会長だから、私を褒めてくれているんだ。不器用な航大会長の、細やかな配慮なんだわ……)
私はそう思いながら、彼の笑顔を見つめていた。
しかし、航大は私の顔を見て、また少し顔を赤くした。

「優菜さん、君の空想的な発想は、本当に素晴らしい。これからも、僕を、そして生徒会を、もっと楽しませてほしい」

その言葉は、私を褒めているのか、それともからかっているのか、私にはわからなかった。
ただ、彼の声を聞いていると、私の胸は少しだけ、甘く締め付けられる気がした。
この無自覚な両片想いは、この先どうなっていくのだろうか。