【夜探偵事務所・朝】
事務所のドアが開き
健太が出勤してきた
健太:「おはようございます」
だが
デスクに座る夜からの返事はない
彼女はパソコンの画面に
かぶりつくようにして何かを凝視していた
夜:「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……」
夜:「んん!?」
夜:「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん、ひゃくまん……」
健太:「おはようございます、夜さん?」
夜:「あぁ、おはよう」
夜:「って!田上健太ぁ!」
健太:「あー!はい!」
夜:「ちょっとこれ見て」
夜:「私の目がおかしい、これ、いくら?」
夜が鬼の形相で
パソコンの画面を指差す
健太は恐る恐るその画面を覗き込んだ
事務所の口座のネットバンキング画面だった
そこには信じられない金額の振込履歴が表示されている
健太:「いち、に、さん……」
健太:「えぇー!?」
健太:「きゅ!9桁!?」
夜:「ということは?」
健太・夜:「いちおくぅぅぅぅっ!?」
二人の絶叫が
古びた事務所に木霊した
健太:「こ、これ、滝沢さんからの振込ですよ?」
夜:「いや」
夜はニヤリと全てを悟った笑みを浮かべた
夜:「……璃夏さんよ、きっと」
健太:「なるほど」
夜:「よし!」
夜:「行くぞ!」
夜はガバッと音を立てて椅子から立ち上がった
健太:「え?どこ行くんですか?」
夜:「車を買いに行くんだよ」
夜:「お前が昨日ボコボコにしただろ」
夜は悪戯っぽく笑う
健太:「い、いやいや!あれは夜さんが!」
夜:「当分お前の給料から天引きしてやろうと思ってたんだがな。助かったな」
健太:「ひ、ひどい……!そんな事考えてたんですか!?」
【テスラのディーラー】
夜:「外装は黒!内装も黒!7人乗り!」
夜:「オプションは、考えうる限り全部付けて!」
突然現れた美女の
マシンガンのような要求に
ディーラーの男は若干引き気味だった
ディーラー:「あ、はい、はい。かしこまりました」
ディーラー:「ええと、モデルXの最上位グレードで、全てのオプションを追加しますと……」
夜:「で、いくら?」
ディーラー:「はい、お見積もりで1850万円ほどになりますね」
夜はスマホを取り出し
ネットバンキングを操作する
夜:「今振り込んだわ」
夜:「なるべく早くお願いね」
ディーラー:「は、はい!ただいま入金確認できました!」
ディーラー:「誠にありがとうございます!」
健太:「……コンビニで買い物するみたいに買って、大丈夫なんですか?」
店を出ながら健太が尋ねる
夜:「1億だぞ!1億ぅーーー!」
夜:「よし!次は新しいデスクとソファを買いに行くぞ!」
健太:「は、はい!」
夜は健太の肩をポンと叩き
ニヤリと笑った
夜:「田上健太は、私のおさがりのデスクね」
健太:「えぇー!」
健太:「あ、でも、やっと自分のデスクが貰えるんですね、俺」
こうして
夜探偵事務所は
新しく生まれ変わったのだった



