【令和島】
そこはまさしく戦場だった
怒号と銃声が入り乱れ
日本のヤクザとロシアの軍人が
互いの命を奪い合っていた
その混乱のさなか
ヴォルコフは信じられないものを見た
味方のはずのイヴァンが
敵であるタキの隣で戦っている
ヴォルコフ:(イヴァン?元第十一部隊のイヴァンか?)
ヴォルコフ:(なぜコイツがここに……)
彼は銃を片手に
撃たれた腹を押さえながら立ち上がる
そこへ
滝沢が静かに歩み寄ってきた
周りの喧騒が嘘のように
二人の間だけ空気が止まっている
滝沢:「1つ聞きたい」
ヴォルコフ:「な、なんだ?」
滝沢:「俺は記憶があらかた戻った」
ヴォルコフ:「何だと!」
滝沢:「そこで聞きたい」
滝沢:「俺が子供の時に乗っていた飛行機が墜落した」
ヴォルコフ:「あぁ、あの航空機事故のことか」
滝沢:「あれはロシア軍の誤射によるものなんじゃないのか?」
ヴォルコフ:「………」
滝沢:「やっぱりか」
滝沢:「だから唯一の生き残りの俺を世に出すわけにはいかなかった」
ヴォルコフ:「……そうだ…」
ヴォルコフ:「そうしなければ当時のロシアはソ連崩壊直後で経済制裁などされたら成り立たなかった…」
ヴォルコフ:「だからそうするしかなかったんだ…」
滝沢:「なるほどな」
その時だった
埠頭に鳴り響くおびただしい数の車のエンジン音
関東誠友会の直系組員たちが
続々と令和島に上陸してきた
その数およそ1000人
彼らは雄叫びを上げながらロシア軍に突撃していく
数の差は圧倒的だった
ロシア兵たちは完全に戦意を失う
この時点で生き残っていたのはわずか50人ほどだった
滝沢:「ヴォルコフ、どうする?」
ヴォルコフ:「わ、わかった…」
ヴォルコフ:「手を引く…」
ヴォルコフ:「もう二度とお前には手を出さない…」
滝沢:「じゃあ撤退させろ」
ヴォルコフは部下たちに撤退命令を出した
兵士たちは武器を捨て
貨物船へと戻っていく
滝沢は彼らに背を向けると
倒れていた二人の被検体の元へ行った
滝沢:「大丈夫か?」
被検体:「あぁ……」
滝沢が手を貸すと
二人の少年はよろめきながら立ち上がった
被検体:「か……帰りたく…ない…」
滝沢:「ん?」
もう一人の被検体:「もう…あの地獄には戻りたく…ない」
滝沢:「……日本に残るか?」
イヴァン:「おい!タキ、大丈夫なのか?」
滝沢:「何とかなるだろ」
滝沢:「俺も何とかなった」
彼はヴォルコフに向き直った
滝沢:「ヴォルコフ」
ヴォルコフ:「……」
滝沢:「この二人、帰りたくねぇってよ」
ヴォルコフ:「……好きにしろ…」
滝沢:「小里!」
小里:「はい!」
滝沢:「早く解散させろ」
滝沢:「いくらなんでも警察が来るぞ」
小里:「わかりました!」
小里:「みんなぁ!帰るぞぉ!」
1000人の男たちの雄叫びが夜空に響いた
ヴォルコフはフラフラしながら
ステルスヘリに乗り込みエンジンを始動させる
戦いは終わった
璃夏が滝沢の元へ駆け寄る
璃夏:「滝沢さん」
夜も隣に立った
夜:「おつかれ」
滝沢:「あぁ」
ヴォルコフが乗るヘリが
ゆっくりと上昇していく
機体が起こす強烈な風が
滝沢たちの髪を激しく揺らした
カチャ
滝沢はS&W M500を脇のホルスターから抜いた
イヴァン:「おぉー!俺が送ったタキの彼女じゃないか!」
滝沢は15年ぶりに
心の底から笑った
滝沢:「はは、そうだ」
滝沢:「今でもコイツは特別だ」
そう言うと
彼はM500を構えた
その銃口は一直線に
夜空へ逃れようとするヘリを捉えている
ドゴォォォォォンッ!
放たれた一撃は
ヘリの尾部のプロペラを完璧に破壊した
機体は操縦不能に陥り
きりもみ回転しながら海へと墜落し
巨大な水柱を上げて爆発した
滝沢は静かに言った
滝沢:「乗客345人の無念だ」
全員が
夜の海の上で赤く燃え盛る炎を
ただ、見つめていた



