【令和島】
車は夜の令和島を奥へ奥へと進んでいく
窓の外には巨大なクレーンやコンテナの山
まるで巨人の墓場のようだった
滝沢:(都内にこんな人気のない場所があるとはな)
やがて道の先に巨大な門が見えた
車一台分だけが不気味に開いている
罠だと分かっていながら
滝沢は迷わずアクセルを踏んだ
門を抜け更に奥へ
視界が開けた埠頭の先に
黒く巨大な影が鎮座していた
滝沢:(……ヘリか)
ロシア軍が誇る最新鋭のステルス戦闘ヘリ
その異様な姿は闇に溶け込んでいる
ヘリの前には三人の人影
ブラウンのロングコートを着たヴォルコフ
そして二人の黒いロングコートの男
すぐそばの岸壁には大型の貨物船が
音もなく横付けされていた
滝沢は車から降りる
ヴォルコフ:「15年ぶりだな」
ヴォルコフ:「イレブン」
滝沢は返事をしない
乗って来た車に尻を預け
ゆっくりと煙草に火をつけた
滝沢:「で?本気なのか?」
ヴォルコフ:「本気も何も我が軍は非常に悪い状況にある」
ヴォルコフ:「本来もっと早くにウクライナを落とせると思っていた」
ヴォルコフ:「だが意外にも兵力ばかり失っている…」
滝沢:「だから俺にウクライナ大統領を暗殺しろと」
ヴォルコフ:「イレブンお前の力が必要なのだ」
滝沢:「知ったことか」
ヴォルコフ:「一筋縄ではいかないのは承知の上だ」
ヴォルコフは振り返り
後ろに控えていた二人の男に顎で合図を送る
ヴォルコフ:「少々怪我をさせてでもロシアに連れて帰る!」
滝沢:「ここで俺と殺り合うつもりか?」
黒いロングコートの男二人が
そのコートを同時に脱ぎ捨てた
滝沢の目が鋭くなる
そこにいたのは15歳くらいの少年だった
だがその肉体は異常に発達している
何よりその目
かつての俺と同じ感情のない目をしていた
滝沢:「……まさか」
ヴォルコフ:「そうだ。この二人もお前と同じ被検体だ」
ヴォルコフ:「だがイレブンのようには完成されてない…」
ヴォルコフ:「お前の後の被検体は一定の年齢を越えると自害するか精神崩壊を起こす」
滝沢:「なのに何故続ける?」
ヴォルコフ:「ロシアの為だ!」
ヴォルコフ:「かつての英雄と言われたロシアに戻る為!」
滝沢:「それに何の価値があるんだ?」
滝沢:「時代は変わったんだよヴォルコフ」
ヴォルコフ:「これはロシア大統領の悲願だ!」
ヴォルコフ:「叶えなくてはならん!」
ヴォルコフ:「やれ!」
ヴォルコフ:「死なない程度にな!」
二人の被検体が同時に地を蹴った
完璧に連携された戦闘殺人術
一人は上段回し蹴り
もう一人は足払いを仕掛けてくる
だが
滝沢はまるで柳のようにその二つの攻撃をいなす
二人の少年は互いの攻撃がぶつかりそうになり体勢を崩した
滝沢は明らかに手を抜いている
まるで子供の動きを見極めるように
少年の一人が拳を繰り出す
滝沢はその腕を掴むと流れるような動きで関節を極めた
少年は悲鳴を上げる間もなく地面に制圧される
もう一人の少年がその隙にナイフを抜いた
だがその切っ先が滝沢に届くことはない
気づいた時には
滝沢の銃口がその少年の眉間に向けられていた
滝沢:「もうやめておけ」
ヴォルコフ:「……まさか…」
ヴォルコフ:「この被検体二人でもこれほどの差があるというのか…」
滝沢:「どうする?」
滝沢:「ここで三人とも死ぬか?」
滝沢から放たれる純粋な殺気
その圧倒的なプレッシャーに
ヴォルコフと二人の被検体は
自らの死をはっきりと覚悟した



