【羽田空港へ向かう璃夏の車内】

高速道路のオレンジ色の光が
フロントガラスを滑っていく
璃夏:(絶対ただ事じゃない)
滝沢のあの目
感情のない殺戮マシーンの目
そして彼が話していた流暢なロシア語
その全てが璃夏の胸に重くのしかかる
彼女はスマートフォンを取り出し夜に電話をかけた
夜:『もしもし璃夏さん、何かあった?』
璃夏:「今イヴァンさんを迎えに羽田に向かってます」
璃夏:「それより滝沢さんにシゴトの依頼が来たんです」
夜:『依頼?殺しの?』
璃夏:「そうです。でも依頼人と滝沢さんがロシア語で……」
夜:『……このタイミングで?』
夜:『何か引っかかるわね』
璃夏:「内容はロシア語なんで全く分かりませんでしたけど…」
夜:「で、今滝沢は?」
璃夏:「その依頼人と会いに行くみたいです」
璃夏:「とりあえず私はイヴァンさんを連れて一旦アジトに帰ります。まだ滝沢さんがいるかもしれないので」
夜:「わかったわ」
夜:「でもその依頼の内容が知りたいわね…」
璃夏:「あ!ボイスレコーダーで録音しました」
夜:『ほんと!?』
夜:『ナイス!その録音データ送れる?』
璃夏:「今運転してるので羽田に着いたら送ります」
璃夏:「でも滝沢さんの声しか入ってないと思いますけど」
夜:『とにかく録音データ待ってる』
夜:『それを翻訳してから考えましょう』
璃夏:「わかりました」
璃夏はアクセルを強く踏み込んだ
羽田へ急ぐ
滝沢の過去を知る親友と
未来を脅かす悪魔
その両方が今
東京に集まろうとしていた
【滝沢のアジト】
滝沢はリビングの本棚から
一冊の古いハードカバーを引き抜く
奥に隠されたボタンを押した
ゴゴゴ……
重い音を立てて本棚が横にスライドし
闇へと続く通路が現れる
彼はその中へ入っていく
小さいながらも完璧な防音設備を備えた射撃場
その奥にある武器庫の重い扉を開けた
滝沢:「……これを使うか」
彼が手に取ったのは
八咫烏の長、日向観世から与えられた特殊スーツだった
素材は鉄の15倍の強度を持つダイニーマ繊維
さらに特殊な液体を練り込んであり
普段は柔軟だが銃弾の衝撃を受けた瞬間だけ
ダイヤモンドより硬くなる
刃物もほぼ通さない
まさに闇の任務のための戦闘服
滝沢はそれに着替えると
何丁かの拳銃と予備の弾倉を
体のホルスターに手際よく収めていく
彼はリビングに戻ると
テーブルの上に置かれていた
自らの魂とも言える銀色の獣を手に取った
S&W M500
それを脇腹のホルスターに差し
アジトの扉を開ける
決戦の地、怜和島へ
ただ一人
向かうために