【滝沢のアジト】
その言葉を聞いた瞬間
滝沢の目が変わった
感情のない殺戮マシーンの目へと
そして
隣にいる璃夏が
自分のスマートフォンの画面を指でなぞり
ボイスレコーダーをONにしたのを
滝沢は気づかなかった
ヴォルコフ:『忘れたのか?』
滝沢:「覚えはないが何の用だ?」
ヴォルコフ:『今はもうロシア軍大将ではない』
ヴォルコフ:『現在はSVRの長官だ』
SVR――ロシア対外情報庁
KGBを継承したロシア最強のスパイ組織
そのトップが今
俺に電話をかけてきている
ヴォルコフ:『単なる依頼だよ』
ヴォルコフ:『ビジネスの話だ、イレブン』
滝沢:「わざわざ日本に来てか?」
滝沢:「人を殺すのに俺の手を借りなくてもお前たちで出来るだろ」
ヴォルコフ:『いや、お前にしか出来ないんだよ、イレブン』
滝沢:「ロシア軍に出来なくて俺になら殺れる?」
滝沢:「そんなヤツ……」
その言葉に被せるように
ヴォルコフは告げた
ターゲットの名前を
ヴォルコフ:『ウクライナ大統領、ヴィクトル・コヴァレンコだよ』
滝沢:「……なんだと…!?」
さすがの滝沢も
その名前に一瞬、思考が停止した
一国の、それも現在進行形で戦争をしている国のトップ
それを殺せと
その依頼の持つ意味は
あまりにも重く、巨大だった
ヴォルコフ:『とにかく、詳しく話したい』
ヴォルコフ:『今から言うところに来い』
滝沢:「今更お前たちと関わるつもりは無い」
ヴォルコフ:『あれから15年』
ヴォルコフ:『こっちに根付いてお前にとって大切な人間もいるのだろう?』
ヴォルコフ:『今回我々は手段を選ばない』
ヴォルコフ:『お前ならこの意味がわかるだろ?』
滝沢の脳裏に
一人の女の顔が浮かんだ
隣で息を殺して座っている
璃夏の顔が
滝沢の拳が固く握りしめられる
それは、彼が忘れていたはずの感情
「怒り」だった
滝沢:「……場所は?」
ヴォルコフ:『ふふっ』
ヴォルコフ:『令和島だ』
滝沢:「令和島?」
ヴォルコフ:『調べればすぐに出る』
ヴォルコフ:『令和島の奥に大きな門がある。その門を開けておく』
ヴォルコフ:『その門の先をずっと奥まで来い』
ヴォルコフ:『そこに俺はいる』
滝沢:「わかった」
ヴォルコフ:『会えるのを楽しみにしてるよ、イレブン』
滝沢は電話を切った
ガチャン、という音がやけに大きく響いた
璃夏はすぐにボイスレコーダーを切った
璃夏:「滝沢さん!今の電話は…!?」
滝沢:「単なる依頼だ」
璃夏:「でも……ロシア語で……!」
滝沢:「気にするな」
滝沢:「俺もじきに出て行く」
璃夏はハッとして時計を見る
もうすぐイヴァンが到着する
早く羽田に行かなければ
璃夏:(でも……滝沢さんを一人で行かせてはいけない……!)
直感が叫んでいた
ロシア語がわからない璃夏には話しの内容は全くわからない
これはただの仕事ではない
そんな気がしてならない
滝沢:「出かけるんだろ?」
璃夏:「……」
璃夏:「と、とりあえず出かけてきます…」
璃夏:「何かあったら、すぐに連絡してくださいね…!」
滝沢:「あぁ」
璃夏はアジトを飛び出した
車に乗り込み羽田へと向かう
滝沢の親友を迎えに



