【夜探偵事務所】

作戦は決まった
璃夏がイヴァンを羽田空港まで迎えに行く
昼過ぎ
イヴァンから韓国行きの便に無事乗れたと連絡が入った
ひとまず安心した璃夏は
滝沢のアジトへ一旦帰ることにした
夜:「こちらからもTelegramは確認してる」
夜:「もし何かあったらすぐに言ってね璃夏さん」
璃夏:「わかりました」
璃夏:「じゃあ一旦帰ってイヴァンさんと連絡を取りながら迎えに行きます」
健太:「お気を付けて」
璃夏は事務所を後にする
滝沢への言い訳を完璧にするため
彼女は本当に美容院へ向かった
髪を整えながらこれからの段取りを頭の中で必死に組み立てる
そしてアジトへ帰った
【滝沢のアジト】
璃夏:「ただいま帰りました」
滝沢:「おぅ」
滝沢はM500の手入れをしていた
分解された巨大なパーツがテーブルに並んでいる
その冷たい金属の光が部屋の空気を支配していた
璃夏は帰るなり
朝の話の続きが聞きたいと彼に告げた
滝沢:「あ?」
面倒くさそうに滝沢が顔を上げる
璃夏:「あ、でも夜に少しだけ私出かけますから」
璃夏:「また時間があるときにゆっくり聞かせてください」
あと二時間ほどでイヴァンが来る
今はゆっくり話している時間はない
璃夏が出かける用意をしていると
スマホが静かに震えた
イヴァンからのメッセージだった
イヴァン:『あと1時間で羽田だ』
イヴァン:『璃夏、よろしくな』
イヴァン:『早くタキに会って驚く顔が見たい(ワクワクする絵文字)』
その無邪気なメッセージに
璃夏は思わずクスリと笑った
滝沢:「何ニタニタしてる?」
璃夏:「いえ、別に」
璃夏:(あと1時間なら少し早いけどそろそろ行かないと)
璃夏:「それじゃ、わた―――」
その時だった
ジリリリリリリリリリッ!
時代錯誤な黒電話のベルが
アジトの静寂を暴力的に引き裂いた
滝沢が璃夏に
少し待てと手でジェスチャーをする
彼は銃の部品から手を離し
その黒電話を取った
滝沢:「―――誰を、殺して欲しい?」
仕事の依頼だ
空気が凍り付く
電話の向こうから聞こえてきたのは
ノイズ混じりの低い男の声
それはロシア語だった
相手:『久しぶりだな、イレブン』
その言葉を聞いた瞬間
滝沢の目が変わった
感情のない殺戮マシーンの目へと
彼は流暢なロシア語で返す
滝沢:「お前は誰だ?」
相手:『俺の声を忘れたのか?』
滝沢:「覚えはないが何の用だ?」
滝沢が話す流暢なロシア語
璃夏はそれがただ事ではないことを瞬時に察知した
背中に冷たい汗が流れる
電話の向こうの男は
心底楽しそうにこう名乗った
相手:『元ロシア軍大将、ドミトリー・ヴォルコフだよ』