【夜探偵事務所】
イヴァンのメッセージは
そこで途切れた
事務所には重い沈黙だけが残される
滝沢の失われた過去
そのあまりにも悲しい真実が
今明らかになった
最初に沈黙を破ったのは璃夏だった
彼女は涙を拭うと健太の方を向いた
璃夏:「健太さん、これって私のスマホでも出来ます?」
健太:「はい、スマホでもこのトークルームに入れますよ」
璃夏:「やり方教えてください」
健太が璃夏のスマートフォンを手に取り
Telegramの使い方を教え始める
その横で
夜は健太が使っていたノートパソコンを自分の前に引き寄せた
彼女はキーボードを叩き
イヴァンとの会話を続ける
夜:『そのタキを改造した薬について詳しく聞きたい』
イヴァンの返信は早かった
イヴァン:『俺も全てを知っているわけじゃない』
イヴァン:『だがタキを逃がした後ドクターの目を盗んで研究室に忍び込み資料をいくつか盗み見た』
イヴァン:『薬の名前は**『コーコン』**。ロシア語で繭(まゆ)という意味だ』
夜は眉をひそめた
イヴァン:『作用は遺伝子レベルでの筋力増強』
イヴァン:『それに耐えるための骨格形成』
イヴァン:『常人を超えた関節の可動域と心肺機能の向上』
イヴァン:『各分野のトップアスリートに匹敵する肉体を作り上げる薬だ』
イヴァン:『ただし副作用として感情の欠落と記憶障害が起こる』
そしてここからが
第零部隊に起こった本当の地獄だった
イヴァン:『タキがいなくなった後ドクターは第二第三のタキを作ろうとした』
イヴァン:『だがタキ以外の被検体は全員失敗した』
イヴァン:『『コーコン』に精神が耐えられず発狂し自害するか』
イヴァン:『廃人のように全く動かなくなるか』
イヴァン:『そのどちらかだった』
イヴァン:『俺があの時タキを逃がしたのは正解だったんだ』
イヴァン:『悲しい別れだったが……それでも、正解だった』
夜はパソコンの画面を見つめながら
静かに思考を巡らせていた
夜:(精神崩壊……。滝沢がそうならなかったのは……)
夜:(イヴァンという『友人』の存在があったからこそ、か……)
夜:(一歩間違えば滝沢も……)
その時
ピコン、と通知音が鳴り
イヴァンから新しいメッセージが届いた
夜はその内容を見て絶句した
イヴァン:『俺は今長期休暇中でな。時間がある』
イヴァン:『だから、タキに今から会いに行くよ』
イヴァン:『じゃあ飛行機の手配をしてくる。タキには内緒にしといてくれ』
イヴァン:『サプライズしたいんだ。タキ驚くだろうな(笑)』
そこから
イヴァンの返信はぱったりと途絶えた
夜:「……おい!」
夜の鋭い声が飛ぶ
璃夏のスマホを設定していた健太と璃夏が
驚いて夜の方を見た
夜:「イヴァンという男、とんでもないことを言い出したぞ」
璃夏・健太:「え?」
夜は呆れたように
そしてどこか可笑しそうに
天を仰いで笑った
夜:「あいつが部隊の『落ちこぼれ』だったってのが
凄くよくわかったわ」



