健太は、決意を固めると、再びノートパソコンに向き直った。
まず彼がやったのは、先ほどイヴァンから送られてきたDMのロシア語全文をコピーし、**『DeepL』**という高精度の翻訳サイトに貼り付けることだった。一般的な翻訳サイトと違い、このDeepLは微妙な言葉のニュアンスや口語表現まで正確に訳してくれることで知られている。ここで翻訳を間違えるわけにはいかない。
健太:「……よし」
翻訳された日本語を、彼は夜と璃夏に読み上げた。
健太:「『タキ!タキは僕の親友だ。君はタキの現在の友達なのか?もし現在のタキを知っているなら、タキは元気にしているのかい?』……と。やはり、敵意はなさそうです」
夜:「ええ。むしろ、滝沢の身を心から案じているわね」
璃夏:「良かった……」
璃夏は、安堵の息を漏らした。
健太は、今度は日本語で返信文を作成し、それをDeepLで完璧なロシア語に翻訳。そして、イヴァンへとDMを送った。
『はい、私たちは彼の友人で、今は少し複雑な事情を抱えた彼をサポートしています。あなたに、どうしても滝沢の過去についてお聞きしたいことがあります』
返信は、すぐに来た。
イヴァン:『そうか……友人が。良かった。だが、このSNSで込み入った話をするのは危険だ。ロシアでは皆これを使っているんだが……**『Telegram(テレグラム)』**というアプリをやっていないか?非常にセキュリティが高い。そこでなら話せる』
夜:「……ビンゴね」
夜は、ニヤリと笑った。敵意はないが、警戒心は極めて強い。元軍人らしい、当然の反応だ。
健太:「テレグラム……。ロシアや東ヨーロッパで主流の、秘匿性の高いチャットアプリですね。LINEのグループみたいに、複数人で話すこともできます」
夜:「じゃあ、決まりね。健太、すぐにアカウントを作って、璃夏さんと私を招待して。それから、イヴァンをそのグループに招待するのよ」
健太:「はい!」
健太は、慣れた手つきで新しいアプリをインストールし、アカウントを設定。夜と璃夏、そして自動で会話を翻訳してくれる**「翻訳ボット」**を入れた、専用のグループチャットルームを即座に立ち上げた。
準備は整った。
健太は、イヴァンにテレグラムの招待URLを送る。
数分後。
三人が見つめるパソコンの画面に、新しい通知がポップアップした。
『Ivan Sokolovさんがグループに参加しました』
過去への扉が、今、開かれた。
画面の向こう、ウラジオストクにいる親友が、15年ぶりに、滝沢の物語に触れようとしていた。



