第四章:始まりの銃声
【滝沢のアジト】
朝の光が、アジトの無機質なコンクリートの壁をぼんやりと照らしていた。
滝沢が、いつものようにテレビの電源を入れようとソファに向かうと、その手前にあるダイニングテーブルの椅子に、すでに璃夏が座っていることに気づいた。
彼女は、マグカップを両手で包むように持ち、静かに滝沢の方を見ていた。
璃夏:「おはようございます」
滝沢:「おぅ」
璃夏:「……今日も、夢、見ましたか?」
滝沢:「あぁ」
璃夏:「……教えて、もらえますか?今日見た夢の話し」
滝沢は「さっそくか」と、やれやれと言った表情でソファにどかりと腰を下ろした。
そして、煙草に火をつけると、まるで遠い昔の映画のあらすじでも話すかのように、その悍(おぞ)ましい記憶の数々を、静かに、そして淡々と、語り始めた。
滝沢:「10歳の頃から死刑囚と殺し合いをさせられた」
滝沢:「死刑囚に俺を殺せたら釈放するというエサを与えてな」
璃夏の顔がこわばる
滝沢:「15の時最後の相手は元UFC王者だった」
滝沢:「ヤツは強かった」
「腕ひしぎで腕を折られかけた」
「だが俺は肩の関節を自分で外して脱出した」
滝沢:「最後は膝を破壊し」
「顔面を砕き」
「首の骨を折った」
滝沢:「ドクターは言った」
「『殺戮マシーンの完成だ』と」
滝沢:「その半年後だ」
「イヴァンが入隊してきた」
「それが俺が覚えている一番古い記憶だ」
全てを話し終えた滝沢
滝沢:「……夢が、ようやく、俺の記憶に追いついた」
璃夏:「気になったんですけど……」
璃夏:「日本に来てからは、どうなって今の生活になったんですか?」
滝沢:「……それも話すのか?」
璃夏:「はい」
璃夏は、にこりと、有無を言わさぬ笑顔を向けた。
【健太の部屋】
健太が目を覚ますと
スマホのランプが点滅していた
慌てて確認する
健太:「返信来てる!」
SNSのDMを開いた
だが画面はロシア語で埋め尽くされていた
健太:「…………」
彼はまず夜にLINEで報告を入れる
『イヴァンから返信あり。全文ロシア語です』と
翻訳は後回しだ
健太は急いで出勤の準備を始めた



