不幸を呼ぶ男 Case.1


【図書館】
閲覧室の片隅で、夜のスマートフォンが静かに震えた。
電話の向こうから聞こえてくる健太の興奮した報告を、夜は隣にいる璃夏にも聞こえるようにスピーカーに切り替える。
健太:『……その写真のデータに、撮影年月日が記録されていました!18年前です!』
健太:『写真には、滝沢さんが16歳くらいの姿で写っていました!』
夜:「……健太、良くやったわ!最高の情報よ!」
夜は、思わず声を弾ませた。隣で聞いていた璃夏も「やった……!」と小さなガッツポーズを作る。二人の、喜びと興奮に満ちた声が、静寂を支配する閲覧室にかすかに響いた。
その時、近くの席で分厚い本を読んでいた老婆が、ゆっくりとこちらを向き、人差し指を口に当てて「しーっ!」と鋭い視線を送ってきた。
夜と璃夏は、ビクッと肩をすくめて固まる。
二人は顔を見合わせると、バツが悪そうに縮こまり、老婆に向かって同時にぺこりと頭を下げた。夜は、照れ隠しにぺろりと舌を出す。その仕草に、璃夏は思わず声を殺してクスクスと笑った。
夜は、気を取り直して健太を称賛し、一方的に電話を切った。そして、改めて璃夏に向き直る。
夜:「聞いたでしょ?璃夏さん。18年前に、滝沢は16歳だった。これで、調査範囲をかなり絞れるわ」
璃夏:「はい……!」
夜は、指を自分のこめかみに当てて、思考を巡らせる。
夜:「事故は、彼が子供の頃に起きたはず。18年前に16歳だったということは、それ以前の、彼が生まれてから15歳になるまでの間……。これまで調べていた『25年前の前後5年』よりも、もっと正確な範囲を狙える」
二人の目に、再び闘志の火が灯った。
果てしない砂漠の中から、宝が埋まっている一角を特定できたのだ。
夜:「璃夏さん、ネット検索の範囲を『19年前から34年前まで』に設定して!私も、その期間の新聞を洗い直す!」
璃夏:「はい!」
二人は、先ほどとは比べ物にならないほどの集中力で、それぞれの調査を再開した。
そして、数十分後。
璃夏:「……あった」
璃夏が、呆然とした声で呟いた。
夜:「見つかったの!?」
夜は閲覧機から顔を上げ、璃夏の元へと駆け寄る。
璃夏は、パソコンの画面を指差した。そこに表示されていたのは、29年前の海外の新聞記事をデジタル化したものだった。
『フランクフルト発・羽田行きの国際旅客便が、ロシア上空でレーダーから消失。乗員乗客345名。テロの可能性も視野に調査』
夜:「……ビンゴね」
夜は、ニヤリと、獰猛な笑みを浮かべた。
滝沢の過去に繋がる、最初の扉。
その鍵を、彼女たちは、ついに手に入れたのだ。