「シーラ、お昼ごはんの時間だよ」
「えばん」
低い声に呼ばれて横を見ると、15歳年上の兄・エヴァンが屋敷のほうから歩いてきていた。
右肩の前で結んでいる、黒いつややかな髪は胸のあたりまで伸びていて。
顔の左側に流した長い前髪に、やさしげな赤いたれ目が片方隠れているけど、女にキャーキャーさわがれそうなイケメンっぷりはまったく隠せていない。
黒いYシャツに黒いパンツ、大昔の貴族がしていたようなフリフリの白い胸かざりを身につけたふだん着も、自然体で似合っている。
「屋敷にもどろうね」
ベンチの前まで来たエヴァンは、ほほえんであたしをだっこした。
前世の両親ですら、あたしがいつも男関係のトラブルを起こしていることに渋い顔をしてばかりだったから、こういうあつかいは なれない。
来た道をもどるエヴァンの腕のなかで、歩調に合わせてゆられながら、あたしは いかにも悪魔が棲む場所らしい赤い空を見上げた。



