「君に花を贈る」番外編……各所の花壇にて

「ここにもついてる」

 ヒマワリの手入れをしていたら、葉に蝉の抜け殻がついていた。
 さっきからあちこちで見かける。好きでも嫌いでもないけど、そんなにいい思い出もない。
 友達以上、恋人未満の藤乃さんが、「俺はそういう“宝物”をあげたい相手もいなかったし」と言っていた。
 小学生のころ、ときどき蝉の抜け殻をくれる男子がいたけど、それが好意だったのだと今更になって気づいた。

「花音ー、手伝えー」

 ぼんやりしていたら、兄の瑞希の声が後ろから聞こえた。

「はいはい」

 瑞希を手伝いながら、ふと思いついたことを聞いてみる。

「ねえ、瑞希は誰かに蝉の抜け殻あげたことある?」
「なんだ、急に。ないな……いや、藤乃にはあげようとしたけど、いらないって言われた」
「……女の子にあげたことある?」
「ない」

 そこで、藤乃さんに言われたことを話す。何度も渡された蝉の抜け殻が、実は好意のしるしだったという話。

「そういう意味なら、俺も藤乃と同じだな。“宝物”あげたいと思う相手がいないし」
「そうなんだ。中高と彼女いたよね」
「は? ……あー、あれは……彼女ではねえな」
「ふうん」

 瑞希がそっぽを向いて手を動かすのに合わせて、私も黙って作業を続けた。

 兄は中学も高校も、わりと自由にしていた。よく女の子と一緒にいたし、私の友達にも「花音ちゃんのお兄ちゃん、かっこいいよね」って言う子が多かった。
 私にとっては兄だし、「そうかな……?」くらいにしか思えない。
 でも、そういえば瑞希は誰とも長続きしてないみたいだし、家に連れてきたことも、紹介したこともなかった。
 子供のころから今まで、瑞希が家に連れてきたのは藤乃さんだけ。

「……私たち兄妹、藤乃さんのこと大好きだよね」

 ついそう言ったら、瑞希が嫌そうな顔をした。

「は? 違うから。藤乃が俺らのこと好きなんだろ」
「そうかな」
「そうだよ」

 ライバルはお兄ちゃんか……ちょっと勝てる気がしない。