尋常じゃないほどに、心臓がうるさく鳴っている。
今までに感じたことがないくらいの熱が顔に集まって、声が出るまでにすこし時間がかかった。
「…天草の彼女になるなんて言ってないしっ!」
そう言い放っていきおいよくしゃがみ、体がぶつかるのもかまわずに、天草の腕の下を走り抜ける。
急いで保健室の扉に向かう私のうしろから、のんきな声が聞こえた。
「あっ。爽太郎って呼んでよ、冷那ちゃん」
「呼ぶわけないでしょ!」
走って廊下に逃げ出す私を、もうひとつの足音が追いかけてくる。
あんな男の姫になったら、なにをされるか わからない!
手の甲で口を押さえながら、私は熱い顔を冷ますように、とにかく走り続けた。
――私が女好き男に捕まるまで、あと、もうすこし。
fin.



