〇大学のキャンパス内・夕方
授業が終わり、校舎を出た透花と百合。
キャンパスの外まで一緒に向かう。
百合「終わった終わった! 透花、今日もバイト?」
透花「うん」
百合「相変わらずいっそがしいねぇ。たまには遊んでよ~?」
透花「うん。予定立てよ」
百合「よっしゃ! あ、てかさ~、ユーヒ先輩とはどうなったの?」
ピタリと固まる透花。
ワクワクとした顔をしている百合
透花「……別に何にも。クリーニング代渡しただけだよ」
百合「え~! でも学校サボって出かけたんでしょ? そのあと連絡とか」
透花「してない」
百合「うっそぉ!」
スマホを開く透花。六月四日が表示される。
透花モ『クリーニング代の押し付け合いから早三週間。気付けば六月になっていた』
オンスタのDMの画面。「オッケー(絵文字と一緒に)。こっちもそろそろ着くよ~」というやり取りで止まっている。
透花モ『そもそもクリーニング代を渡す為の約束だった訳だし、その後も絡む理由が私達にはない』
海を背に笑う遊飛が過る。
透花(向こうは友達多そうだしね。……それに)
顔を曇らせて俯く透花。
透花(これ以上は、良くない)
昔の母が笑って手を差しだす姿が過る透花。
透花モ『他人の優しさに依存してしまえば、そのあと傷付くのは自分だ』
透花(期待して、自滅する。そんな馬鹿馬鹿しいことは避けるべきだ)
百合「も~、ほんとに色恋のフラグが一つも立たないんだから」
透花「男女の組み合わせですぐ恋バナに繋げようとするの、百合の悪いとこだよ」
百合「私は心配してるんです~! 透花は可愛いのに、高校からずーっとそういう話ないから!」
透花「今は興味ないかなぁ、正直」
百合「そーやっておーあちゃんになるんだ!」
透花「大袈裟すぎ」笑う
〇男装カフェ『Magical House』・夜
透としての装いをした透花、お客さんとチェキを取っている。
「先に席戻ってて」と撮影ブースからテーブルへの移動をお客さんに促す透花。
チェキとペンを片手に腕時計を確認する。時刻は二十二時手前。
透花(あと一時間か。早いなぁ)
店の入口のベルが鳴る。透花、入口へ向かう。
透花「はーい、おかえりなさい、ませ……」唖然
遊飛「どーも」
透花(……な)
笑顔の遊飛が立っている。
呆然とする透花。
透花(何でここに……!?)顔が青くなる
すぐに透としての笑顔を貼り付けるもぎこちない。
透花「二度目ましてですね。どうぞ」
テーブルへ案内しながら、「ご主人様がご帰宅されました」と透花。「おかえりなさいませ」と他のキャスト。
席に座り、メニューを眺める遊飛。
透花「ドリンクはどうされますか? あと、フードがそろそろラストオーダーですが」
遊飛「今日はドリンクだけで。食べて来たし」
透花(どうせまた飲んでたんだろうな)前回六人で来店した時の様子を思い出す
これ、とメニューを指す遊飛と伝票に追記する透花。
透花「では少々お待ちくださ……」
キャスト「皆様ご注目くださーい」
シャンパンを持ったキャスト、お客さんの傍で話す。
キャスト「僕のご主人様、アヤカちゃんからシャンパン頂きました~!」
キャスト全員で「ありがとうございます~!」と声掛け。
キャスト「僕の合図でポン! だよ~。せーの」
三、二、一、とキャスト達やお客さんでカウントダウン。最後にシャンパンを持ったキャストが「ぽん!」と言いながら栓を開ける
キャスト達「「「ありがとうございま~す!」」」
キャストやお客さん、拍手。
透花「それでは、少々お待ちください」
遊飛「あ、うん」
会釈してその場を去る透花を見送る遊飛。
遊飛(シャンパンかぁ。ホストとかキャバクラみたいな感じなのかなぁ)行った事ないけど、と独り言
メニューを捲って「ゲッ、高……っ」となる遊飛
作ったドリンクを遊飛の席まで運ぶ透花。
透花「どうぞ」
遊飛「ありがとう」
透花、お客さんと話している先輩キャスト(シャンパンを貰った子)を見る。
透花(先輩、お酒弱いんだよなぁ)
透花「一度失礼しますね」
遊飛「お? うん」
透花、空いたシャンパングラスを片手に先輩キャストがいる席へ向かう。
透花「アヤカちゃん、やっほー」
女性客B「あ。透くん。やっほー」
透花「俺もおすそ分けもらっていー?」キャストへアイコンタクト。笑いかける。
女性客B「もっちろん。夏樹(なつき)だけだと余らせちゃうし」
キャスト「弱くて面目ない~……。気持ちは受け取ってるからね!」
女性客B「知ってる♡」
シャンパンの入ったグラスでお客さんと乾杯し、一気に飲み干す。
遠目に見てた遊飛、目を丸くする。
遊飛(お。結構飲める感じなんだ)
その後、他のテーブルのお客さんへ話し掛けに行っては時折シャンパンのおかわりを貰いに戻る動きを繰り返す透花。
三回目くらいから若干顔を強張らせながら見守る遊飛。
遊飛(いや、普通に強いな……っ!?)
空になったボトルを回収するキャストと嬉しそうな女性客B。
女性客B「ありがと、透くん~♡ でも無理はしないでね。こーゆーのって気持ちだから」
透花「だいじょーぶ、だいじょーぶ。俺お酒好きだし、寧ろ感謝だって」
女性客B「ちょっとやだ~」嬉しそうに笑う
女性客Bと笑い合う透花。無邪気で明るい笑顔。
それを見て優しく微笑む遊飛。
〇男装カフェ『Magical House』・夜中
更衣室で着替え終わった透花に先輩キャスト手を合わせる。
キャスト「ごめんね、体調平気?」
透花「ほんと大丈夫ですよ。俺強い方だから」
キャスト「いつもありがとね~」
笑いながらスマホ開く透花。
透花「いいえ~……」目を丸くする
オンスタのDM通知に遊飛のアカウント名と『一緒に帰らない?』というメッセージ内容。
透花眉根を寄せて難しい顔。ため息。
〇街中・夜中
男装カフェ『Magical House』からやや離れた通り。
スマホを片手に待っている遊飛。それを見つけて近づく透花(まだ私服+男装中)。
透花「店の外で会うの禁止なんですよ」
遊飛「開口一番それかぁ」
透花「結構大事な事なんです。この辺、お客さんが通る事も少なくないんですから、見られたら困ります」
遊飛「ごめんね~、その辺あんまり詳しくなくて」
透花「いえ、次から気を付けてくれれば……。それで、何か用事ですか?」
遊飛「大した用はないよ。ただ、結構飲んでたから少し心配になっただけ」
透花「ああ……」
透花(気遣いだったのか)
遊飛「透花ちゃん、結構お酒強いんだねぇ」駅こっち、と指しながら歩き出す。
透花「まあ。……今日はキャスト少なめだったので結構飲みましたけど」さすがにちょっと熱い、と手で顔を仰ぐ
遊飛「じゃ、飲みの席が苦手ってのは空気とかウザ絡みが好きじゃないって事なんだ」
透花「そうですね」
透花、家に散らかる酒瓶やチューハイの缶、怒鳴る父親を思い出す。
透花「お酒で騒ぎを起こす人が嫌いなんです。性格が変わったり、周りに迷惑かけたり、酔いを正当な理由にしようとしたり」軽蔑的な目。嫌悪が滲む。
遊飛、透花の表情の変化に気付く。
遊飛「あーね」気付かないふり
駅が近づく。透花、いつもの調子に戻る。
透花「先輩はどうして今日来たんですか? お店」
遊飛「あー。今日はいつメンが早めに解散してさ。もう少しどこか行きたいなって思って」
透花「……それでわざわざここに?」怪訝そう
遊飛「そんな顔しないでよ~。言ったでしょ?」
透花の顔アップ。
遊飛、満足げに目を細める。
遊飛「あそこにいる時の君が好きだからだよ」遊飛の顔アップ
透花「す……っ!」顔が真っ赤になる。
遊飛「あ、ごめん下心とかではなくてね」
透花「いや、いや、わかってます……っ」
透花(び……っ、くりした……)
二人、駅に辿り着く。
透花(……もう駅かぁ)
駅の時計を見る透花。二十三時半頃を指している。
両親の姿が過る透花。
足を止める。
透花「……先輩、まだ時間ありますか」
遊飛「ん? うん」
透花、困ったように笑いながら駅に併設されたコンビニを指す。
透花「……もう少しだけ話しません?」無理に作った笑み
〇駅前・夜中
開けられた缶チューハイを持つ手が二つ。
駅前の公園のベンチに座る遊飛と、『透花』としての姿に戻った透花。※『トイレでウィッグ取った』と注釈
周りには同じ様に飲んでいたり、酔っ払った若者がちらほらいる。
遊飛「透くんじゃなくて、透花ちゃんに会うのなら大丈夫なの?」
透花「まあ、ちょっと屁理屈ですけど」苦笑しながら缶を傾ける
遊飛、缶を持ち上げて乾杯する。
遊飛「にしても、まだ飲むんだ」ストロングワン(現代日本のスト〇ングゼロ。以降ストワン表記)を持っている
透花「流石に弱いのにしました」ほのよい(現代日本のほろよい)を持っている
遊飛「直前が飲み過ぎなんだよねぇ」けらけら笑う
視線を透花から外す遊飛。夜空見上げる。
遊飛「何かあった?」
透花「え?」
遊飛「透花ちゃんって真面目なイメージあるからさ。俺みたいなの誘って公園で飲む感じではないなって」
透花「そんな事ないですよ。一人でよくやります」
遊飛「一人で!?」
透花「お酒強いですし、潰れるほど飲んだりもしないので」
遊飛困ったように笑う。
遊飛「今度から俺も呼んでよ。俺、話すのも飲むのも好きだし」
透花、静かに驚く
透花モ『遊飛先輩はチャラい。……けど、優しい人だ』
遊飛、笑顔
透花モ『女である私の身を案してくれたんだと思う』
透花「……じゃあ、時々」
笑みを深める遊飛。
透花モ『優しさは心の余裕だ。他人同然の私にここまで出来るのは彼が今満たされているから。きっと、私より恵まれているから』
透花(私とは、違う世界の人なんだろうな)
時間経過
二人、駅前で別れる。
透花モ『他人を妬み、羨んでしまう未熟な私は、まだ考えつきもなかった』
夜道を一人で歩き、一軒家へ辿り着く遊飛。
遊飛「ただいまー」玄関で声を掛ける。
シン、と静まり返る。
玄関に並ぶ靴がない。
亡くなった後綺麗に片付けられた祖父の部屋。
祖父母の写真が並ぶ仏壇。
祖父の写真アップ。
透花モ『どんな人にだって、大きな傷が隠れているかもしれないということを――』
玄関に立ち尽くしたまま静かに苦笑する遊飛。
授業が終わり、校舎を出た透花と百合。
キャンパスの外まで一緒に向かう。
百合「終わった終わった! 透花、今日もバイト?」
透花「うん」
百合「相変わらずいっそがしいねぇ。たまには遊んでよ~?」
透花「うん。予定立てよ」
百合「よっしゃ! あ、てかさ~、ユーヒ先輩とはどうなったの?」
ピタリと固まる透花。
ワクワクとした顔をしている百合
透花「……別に何にも。クリーニング代渡しただけだよ」
百合「え~! でも学校サボって出かけたんでしょ? そのあと連絡とか」
透花「してない」
百合「うっそぉ!」
スマホを開く透花。六月四日が表示される。
透花モ『クリーニング代の押し付け合いから早三週間。気付けば六月になっていた』
オンスタのDMの画面。「オッケー(絵文字と一緒に)。こっちもそろそろ着くよ~」というやり取りで止まっている。
透花モ『そもそもクリーニング代を渡す為の約束だった訳だし、その後も絡む理由が私達にはない』
海を背に笑う遊飛が過る。
透花(向こうは友達多そうだしね。……それに)
顔を曇らせて俯く透花。
透花(これ以上は、良くない)
昔の母が笑って手を差しだす姿が過る透花。
透花モ『他人の優しさに依存してしまえば、そのあと傷付くのは自分だ』
透花(期待して、自滅する。そんな馬鹿馬鹿しいことは避けるべきだ)
百合「も~、ほんとに色恋のフラグが一つも立たないんだから」
透花「男女の組み合わせですぐ恋バナに繋げようとするの、百合の悪いとこだよ」
百合「私は心配してるんです~! 透花は可愛いのに、高校からずーっとそういう話ないから!」
透花「今は興味ないかなぁ、正直」
百合「そーやっておーあちゃんになるんだ!」
透花「大袈裟すぎ」笑う
〇男装カフェ『Magical House』・夜
透としての装いをした透花、お客さんとチェキを取っている。
「先に席戻ってて」と撮影ブースからテーブルへの移動をお客さんに促す透花。
チェキとペンを片手に腕時計を確認する。時刻は二十二時手前。
透花(あと一時間か。早いなぁ)
店の入口のベルが鳴る。透花、入口へ向かう。
透花「はーい、おかえりなさい、ませ……」唖然
遊飛「どーも」
透花(……な)
笑顔の遊飛が立っている。
呆然とする透花。
透花(何でここに……!?)顔が青くなる
すぐに透としての笑顔を貼り付けるもぎこちない。
透花「二度目ましてですね。どうぞ」
テーブルへ案内しながら、「ご主人様がご帰宅されました」と透花。「おかえりなさいませ」と他のキャスト。
席に座り、メニューを眺める遊飛。
透花「ドリンクはどうされますか? あと、フードがそろそろラストオーダーですが」
遊飛「今日はドリンクだけで。食べて来たし」
透花(どうせまた飲んでたんだろうな)前回六人で来店した時の様子を思い出す
これ、とメニューを指す遊飛と伝票に追記する透花。
透花「では少々お待ちくださ……」
キャスト「皆様ご注目くださーい」
シャンパンを持ったキャスト、お客さんの傍で話す。
キャスト「僕のご主人様、アヤカちゃんからシャンパン頂きました~!」
キャスト全員で「ありがとうございます~!」と声掛け。
キャスト「僕の合図でポン! だよ~。せーの」
三、二、一、とキャスト達やお客さんでカウントダウン。最後にシャンパンを持ったキャストが「ぽん!」と言いながら栓を開ける
キャスト達「「「ありがとうございま~す!」」」
キャストやお客さん、拍手。
透花「それでは、少々お待ちください」
遊飛「あ、うん」
会釈してその場を去る透花を見送る遊飛。
遊飛(シャンパンかぁ。ホストとかキャバクラみたいな感じなのかなぁ)行った事ないけど、と独り言
メニューを捲って「ゲッ、高……っ」となる遊飛
作ったドリンクを遊飛の席まで運ぶ透花。
透花「どうぞ」
遊飛「ありがとう」
透花、お客さんと話している先輩キャスト(シャンパンを貰った子)を見る。
透花(先輩、お酒弱いんだよなぁ)
透花「一度失礼しますね」
遊飛「お? うん」
透花、空いたシャンパングラスを片手に先輩キャストがいる席へ向かう。
透花「アヤカちゃん、やっほー」
女性客B「あ。透くん。やっほー」
透花「俺もおすそ分けもらっていー?」キャストへアイコンタクト。笑いかける。
女性客B「もっちろん。夏樹(なつき)だけだと余らせちゃうし」
キャスト「弱くて面目ない~……。気持ちは受け取ってるからね!」
女性客B「知ってる♡」
シャンパンの入ったグラスでお客さんと乾杯し、一気に飲み干す。
遠目に見てた遊飛、目を丸くする。
遊飛(お。結構飲める感じなんだ)
その後、他のテーブルのお客さんへ話し掛けに行っては時折シャンパンのおかわりを貰いに戻る動きを繰り返す透花。
三回目くらいから若干顔を強張らせながら見守る遊飛。
遊飛(いや、普通に強いな……っ!?)
空になったボトルを回収するキャストと嬉しそうな女性客B。
女性客B「ありがと、透くん~♡ でも無理はしないでね。こーゆーのって気持ちだから」
透花「だいじょーぶ、だいじょーぶ。俺お酒好きだし、寧ろ感謝だって」
女性客B「ちょっとやだ~」嬉しそうに笑う
女性客Bと笑い合う透花。無邪気で明るい笑顔。
それを見て優しく微笑む遊飛。
〇男装カフェ『Magical House』・夜中
更衣室で着替え終わった透花に先輩キャスト手を合わせる。
キャスト「ごめんね、体調平気?」
透花「ほんと大丈夫ですよ。俺強い方だから」
キャスト「いつもありがとね~」
笑いながらスマホ開く透花。
透花「いいえ~……」目を丸くする
オンスタのDM通知に遊飛のアカウント名と『一緒に帰らない?』というメッセージ内容。
透花眉根を寄せて難しい顔。ため息。
〇街中・夜中
男装カフェ『Magical House』からやや離れた通り。
スマホを片手に待っている遊飛。それを見つけて近づく透花(まだ私服+男装中)。
透花「店の外で会うの禁止なんですよ」
遊飛「開口一番それかぁ」
透花「結構大事な事なんです。この辺、お客さんが通る事も少なくないんですから、見られたら困ります」
遊飛「ごめんね~、その辺あんまり詳しくなくて」
透花「いえ、次から気を付けてくれれば……。それで、何か用事ですか?」
遊飛「大した用はないよ。ただ、結構飲んでたから少し心配になっただけ」
透花「ああ……」
透花(気遣いだったのか)
遊飛「透花ちゃん、結構お酒強いんだねぇ」駅こっち、と指しながら歩き出す。
透花「まあ。……今日はキャスト少なめだったので結構飲みましたけど」さすがにちょっと熱い、と手で顔を仰ぐ
遊飛「じゃ、飲みの席が苦手ってのは空気とかウザ絡みが好きじゃないって事なんだ」
透花「そうですね」
透花、家に散らかる酒瓶やチューハイの缶、怒鳴る父親を思い出す。
透花「お酒で騒ぎを起こす人が嫌いなんです。性格が変わったり、周りに迷惑かけたり、酔いを正当な理由にしようとしたり」軽蔑的な目。嫌悪が滲む。
遊飛、透花の表情の変化に気付く。
遊飛「あーね」気付かないふり
駅が近づく。透花、いつもの調子に戻る。
透花「先輩はどうして今日来たんですか? お店」
遊飛「あー。今日はいつメンが早めに解散してさ。もう少しどこか行きたいなって思って」
透花「……それでわざわざここに?」怪訝そう
遊飛「そんな顔しないでよ~。言ったでしょ?」
透花の顔アップ。
遊飛、満足げに目を細める。
遊飛「あそこにいる時の君が好きだからだよ」遊飛の顔アップ
透花「す……っ!」顔が真っ赤になる。
遊飛「あ、ごめん下心とかではなくてね」
透花「いや、いや、わかってます……っ」
透花(び……っ、くりした……)
二人、駅に辿り着く。
透花(……もう駅かぁ)
駅の時計を見る透花。二十三時半頃を指している。
両親の姿が過る透花。
足を止める。
透花「……先輩、まだ時間ありますか」
遊飛「ん? うん」
透花、困ったように笑いながら駅に併設されたコンビニを指す。
透花「……もう少しだけ話しません?」無理に作った笑み
〇駅前・夜中
開けられた缶チューハイを持つ手が二つ。
駅前の公園のベンチに座る遊飛と、『透花』としての姿に戻った透花。※『トイレでウィッグ取った』と注釈
周りには同じ様に飲んでいたり、酔っ払った若者がちらほらいる。
遊飛「透くんじゃなくて、透花ちゃんに会うのなら大丈夫なの?」
透花「まあ、ちょっと屁理屈ですけど」苦笑しながら缶を傾ける
遊飛、缶を持ち上げて乾杯する。
遊飛「にしても、まだ飲むんだ」ストロングワン(現代日本のスト〇ングゼロ。以降ストワン表記)を持っている
透花「流石に弱いのにしました」ほのよい(現代日本のほろよい)を持っている
遊飛「直前が飲み過ぎなんだよねぇ」けらけら笑う
視線を透花から外す遊飛。夜空見上げる。
遊飛「何かあった?」
透花「え?」
遊飛「透花ちゃんって真面目なイメージあるからさ。俺みたいなの誘って公園で飲む感じではないなって」
透花「そんな事ないですよ。一人でよくやります」
遊飛「一人で!?」
透花「お酒強いですし、潰れるほど飲んだりもしないので」
遊飛困ったように笑う。
遊飛「今度から俺も呼んでよ。俺、話すのも飲むのも好きだし」
透花、静かに驚く
透花モ『遊飛先輩はチャラい。……けど、優しい人だ』
遊飛、笑顔
透花モ『女である私の身を案してくれたんだと思う』
透花「……じゃあ、時々」
笑みを深める遊飛。
透花モ『優しさは心の余裕だ。他人同然の私にここまで出来るのは彼が今満たされているから。きっと、私より恵まれているから』
透花(私とは、違う世界の人なんだろうな)
時間経過
二人、駅前で別れる。
透花モ『他人を妬み、羨んでしまう未熟な私は、まだ考えつきもなかった』
夜道を一人で歩き、一軒家へ辿り着く遊飛。
遊飛「ただいまー」玄関で声を掛ける。
シン、と静まり返る。
玄関に並ぶ靴がない。
亡くなった後綺麗に片付けられた祖父の部屋。
祖父母の写真が並ぶ仏壇。
祖父の写真アップ。
透花モ『どんな人にだって、大きな傷が隠れているかもしれないということを――』
玄関に立ち尽くしたまま静かに苦笑する遊飛。


