さよならの勇気~お隣さんはクールで意地悪な産業医~

「ごめん。今日は出来ない日で」

 咄嗟に嘘をついた。

「えー」

 石黒くんが不満そうに唇を尖らせた。
 自分の思い通りにならないと彼はいつもこういう顔をする。

「ごめんね」
「久しぶりに綾ちゃんとイチャイチャできると思って楽しみだったのにな。母親の介護大変だったんだよ。虫垂炎で手術してさ」

 スプーンを持つ手が止まる。
 確かお母さんは手術しなかったんじゃなかったっけ? まだその嘘つくの?

「そう言えばキャンプ楽しかった?」

 話題を変えたくて明るい声で話を振ると、さらに石黒くんが不機嫌そうになる。

「なんだよ。母親の介護中にキャンプに行ったことを責めているのか?」
「違うよ。ただどうだったかと思って」
「楽しかったよ。気の合う地元の連中と一緒だったから。あの時は母親の介護で大変だったから、息抜きしたかったんだよ。綾ちゃん、バイト始めてから全然かまってくれないしさ」

 さすがに自分の都合のいいようにすり替える石黒くんにカチンときた。
 連絡をくれなかったのは石黒くんだし、母親の世話で週末忙しくて会えないと言ったのも石黒くんだ。
 それなのに、私が彼を放置しているみたいな言い方だ。石黒くんってこんな人だったの?