さよならの勇気~お隣さんはクールで意地悪な産業医~

「石黒くん、本当に私と同棲するの?」
「もちろん。母親も元気になったし、俺がいなくても大丈夫そうだから」
「そうなんだ。お母さん、元気になって良かったね」
「綾ちゃん、癒してよ。俺、母親の世話で大変だったんだから」

 石黒くんが抱き着いてくる。以前は嬉しかった石黒くんの腕が嫌な感じに思えて、身を引くと、石黒くんが思いがけないものを見るような表情をした。

「あ、オムライス持ってくるね」

 石黒くんから離れてキッチンに行き、オムライスを盛り付けたお皿を二つ持ってリビングに行く。
 ローテーブルの上にオムライスを置くと、石黒くんが笑顔を浮かべた。

「俺の好物だ。綾ちゃんは俺のことが大好きだよね。ありがとう。いただきます」

 石黒くんが食べ始め、私もスプーンを手に取り食べた。
 久しぶりだからか、石黒くんといるのが何だかぎこちない。

「そう言えば綾ちゃん、今夜バイトだっけ?」
「うん。8時から」
「じゃあ、それまでまったりできるね。そう言えば二人で見たダブルベッドあるの?」
「あるよ」
「後で綾ちゃんと使うの楽しみ」

 笑みを浮かべた石黒くんを見て、背筋にゾクッとするものを感じる。