さよならの勇気~お隣さんはクールで意地悪な産業医~

「石黒くんのこと何も知らないくせに勝手なこと言わないで下さい! 石黒くんは先生が思っているような人じゃないです。同棲のことではすれ違いましたけど、基本的に石黒くんは私に優しくしてくれます」
「優しい彼が嘘をつくのか? 彼女を深夜のファミレスで働かせて平気でいられるのか?」
「深夜のファミレスのことは石黒くんに言ってないから知りません。話を聞いていただいたことは感謝しますが、これ以上、私のプライベートに関わらないで下さい。深夜の待ち伏せもやめて下さい」

 勢いのままそう言い、ノートパソコンを持って執務室を出た。
 森沢先生に腹が立って仕方ない。優しいと思ったら、やっぱり先生は意地悪だ。私の見たくないものを無理矢理見せようとする。
 石黒くんの悪いところなんて見たくない。今までだって見ないようにしてきたのだから。

 コツコツと靴音を鳴らして廊下を歩いていたら、「綾ちゃん」と優しく呼ばれた。
 石黒くんだった。

「綾ちゃん、さっき営業部に来てくれたんだって? ごめんね。すれ違っちゃって」

 石黒くんが申し訳なさそうに胸の前で手を合わせる。
 今日も石黒くんはグレーのスーツが似合っている。営業だからいつもスーツ姿だ。
 社交的な石黒くんは誰ともすぐに打ち解けることが出来て、そんな所が魅力的だった。

「また連絡するね。俺、これから外回りだから。じゃあ」

 そう言って、石黒くんが急ぎ足で去って行く。
 
 森沢先生は私の顔を見て目が腫れていることをすぐに指摘したのに、彼氏の石黒くんは何も言わなかった。明らかに私は泣いた顔でいるのに。

 彼氏なら大丈夫とか? 何かあったの?とか心配になって聞くんじゃないの? 森沢先生の方が私のことを気遣ってくれるなんて、すごく寂しい。石黒くんにとって私は一体何なの?

 そう思った瞬間、今まで我慢していたものが胸の奥から溢れ出てくる。
 
 このままじゃダメだ。
 一度石黒くんときちんと話し合わなきゃ。