「え、お母さんが入院!」
驚きのあまりスマートフォンを握りしめると、石黒くんの沈んだ声が返ってくる。
『腹痛で救急外来に行ったんだ。それで検査したら虫垂炎って言われてさ』
「虫垂炎ってことは手術になるの?」
『そうなんだ。明日手術って言われた。腹膜炎を起こしているから薬だけじゃ無理だって言われたんだ』
明日手術という言葉が胸に重たく響く。
「じゃあ、石黒くん、明日の引っ越しは無理だよね?」
『綾ちゃん、ごめん。母親が落ち着くまで同棲は待ってくれる?』
「もちろん。こっちは大丈夫だから心配しないで。それに私に何かできることがあったら遠慮なく言って」
『綾ちゃん、ありがとう。やっぱり綾ちゃんは最高の彼女だ』
最高の彼女と言われて照れくさい。
半年前、27年の人生で初めて出来た彼氏が石黒くんだ。
私も石黒くんも東京にある大手食品メーカー「ハッピーフーズ」に勤めている。
人事部所属で入社六年目の私と、営業部所属で入社四年目で二歳年下の石黒くんは職場の飲み会で出会った。
お互いカフェ巡りが趣味だと分かり、二人で出かけるうちに自然と交際に発展した。
ファーストキスも、初めてのエッチも、全部石黒くんがくれたものだ。
『じゃあ、綾ちゃん、また連絡するね』
「お母さん、お大事にね」
スマホを木製のキッチンカウンターの上に置き、段ボールだらけの部屋を見ながら、少しだけテンションが下がった。明日から初めての同棲生活が始まると思っていたのに。
私は今日、一足先に一人暮らしをしていたワンルームのアパートから引っ越して来た所だ。
石黒くんに「一緒に住もう」と言われたのは一ヶ月前で、それから物件を探し、石黒くんが提示した条件に合う築3年の10階建てオートロック付きマンションを見つけた。間取りは2LDKで家賃は私一人のお給料で払うには高いけど、石黒くんと払えばなんとかなる範囲だった。
家賃半年分の初期費用は私が負担したから貯金はもうほとんど残っていないけど、次の家賃の引き落としまでには石黒くんと住んでいるから大丈夫だろう。それよりも石黒くんのお母さんが心配。明日手術だなんて、石黒くん、大変だろうな。彼女として私にできることないかな。
そんなことを考えていたらインターホンが鳴り、ダブルベッドが届いた。石黒くんと同棲する為に新しく買い求めたものだ。寝室に設置したベッドを見て、石黒くんと毎晩このベッドで眠るのかと思ったらわくわくしてくる。
早速ベッドにゴロンと横になり、真っ白な天井を眺める。
石黒くんと同棲するまでの仲になったことが今でも信じられない。ハッキリ言って私の容姿は地味で冴えない。中肉中背の体型で、色白の丸顔だ。背中まである黒髪は顔の輪郭を隠す為にいつも下ろしている。流行の服も自分には似合わないから、無難なものを選んでいる。そんな私はいつも人から存在感がないとよく言われる。男性にも積極的になれず、恋愛は私からほど遠いものだった。だから石黒くんから付き合おうと言われた時は夢かと思った。石黒くんは神様がくれたご褒美だ。石黒くんの引っ越しが延期になったのは残念だけど、楽しみが延びたと思えばいい。きっと来週には石黒くんは引っ越してくるはず。石黒くんとの生活が楽しみだな。
そう思っていたけど、一ヶ月後の私は困った状況に立たされていた。
驚きのあまりスマートフォンを握りしめると、石黒くんの沈んだ声が返ってくる。
『腹痛で救急外来に行ったんだ。それで検査したら虫垂炎って言われてさ』
「虫垂炎ってことは手術になるの?」
『そうなんだ。明日手術って言われた。腹膜炎を起こしているから薬だけじゃ無理だって言われたんだ』
明日手術という言葉が胸に重たく響く。
「じゃあ、石黒くん、明日の引っ越しは無理だよね?」
『綾ちゃん、ごめん。母親が落ち着くまで同棲は待ってくれる?』
「もちろん。こっちは大丈夫だから心配しないで。それに私に何かできることがあったら遠慮なく言って」
『綾ちゃん、ありがとう。やっぱり綾ちゃんは最高の彼女だ』
最高の彼女と言われて照れくさい。
半年前、27年の人生で初めて出来た彼氏が石黒くんだ。
私も石黒くんも東京にある大手食品メーカー「ハッピーフーズ」に勤めている。
人事部所属で入社六年目の私と、営業部所属で入社四年目で二歳年下の石黒くんは職場の飲み会で出会った。
お互いカフェ巡りが趣味だと分かり、二人で出かけるうちに自然と交際に発展した。
ファーストキスも、初めてのエッチも、全部石黒くんがくれたものだ。
『じゃあ、綾ちゃん、また連絡するね』
「お母さん、お大事にね」
スマホを木製のキッチンカウンターの上に置き、段ボールだらけの部屋を見ながら、少しだけテンションが下がった。明日から初めての同棲生活が始まると思っていたのに。
私は今日、一足先に一人暮らしをしていたワンルームのアパートから引っ越して来た所だ。
石黒くんに「一緒に住もう」と言われたのは一ヶ月前で、それから物件を探し、石黒くんが提示した条件に合う築3年の10階建てオートロック付きマンションを見つけた。間取りは2LDKで家賃は私一人のお給料で払うには高いけど、石黒くんと払えばなんとかなる範囲だった。
家賃半年分の初期費用は私が負担したから貯金はもうほとんど残っていないけど、次の家賃の引き落としまでには石黒くんと住んでいるから大丈夫だろう。それよりも石黒くんのお母さんが心配。明日手術だなんて、石黒くん、大変だろうな。彼女として私にできることないかな。
そんなことを考えていたらインターホンが鳴り、ダブルベッドが届いた。石黒くんと同棲する為に新しく買い求めたものだ。寝室に設置したベッドを見て、石黒くんと毎晩このベッドで眠るのかと思ったらわくわくしてくる。
早速ベッドにゴロンと横になり、真っ白な天井を眺める。
石黒くんと同棲するまでの仲になったことが今でも信じられない。ハッキリ言って私の容姿は地味で冴えない。中肉中背の体型で、色白の丸顔だ。背中まである黒髪は顔の輪郭を隠す為にいつも下ろしている。流行の服も自分には似合わないから、無難なものを選んでいる。そんな私はいつも人から存在感がないとよく言われる。男性にも積極的になれず、恋愛は私からほど遠いものだった。だから石黒くんから付き合おうと言われた時は夢かと思った。石黒くんは神様がくれたご褒美だ。石黒くんの引っ越しが延期になったのは残念だけど、楽しみが延びたと思えばいい。きっと来週には石黒くんは引っ越してくるはず。石黒くんとの生活が楽しみだな。
そう思っていたけど、一ヶ月後の私は困った状況に立たされていた。



