(春海)
誰かの“作品”に触れるのは、
その人の心に、そっとふれること。
だから私は、今まで怖くて、
自分の染めた布も、人の前に出せなかった。
……でも、真白さんの“書く言葉”を、
私は知りたいと思った。
◇大学構内・文芸学部棟の自習室(放課後)
⚪︎春海が真白を訪ねて、大学にやって来る。
人の多いキャンパスに、少し緊張しながらも、彼を探す。
⚪︎ガラス越しに、自習室で集中して原稿用紙にペンを走らせる真白の姿。
⚪︎静かで、凛とした背中。
春海は、声をかけるのを一瞬ためらう。
◇室内:休憩中、二人で原稿を見るシーン
⚪︎真白が、春海に小説の草稿を見せる。
春海:
『……えっ、読んでいいの? 本当に?』
真白:
『うん。誰にもまだ見せてないけど……
春海さんには、読んでほしかった』
⚪︎春海、ページをめくる手が震える。
◇回想(小説の抜粋/モノローグ風)
“夜の底で一人、色のない夢を見た。
声を出すこともできず、ただ震えていた主人公は、
誰かが伸ばした手の温度で、初めて目を覚ます——”
⚪︎春海の表情が変わる。
読み進めるほどに、胸を衝かれるような感情がこみ上げる。
春海(静かに):
『……あの子、“私”みたいだった』
真白(はにかむように):
『うん。モデルにしたってわけじゃないけど……
春海さんの話を聞いたときに、書きたくなったんだ』
⚪︎春海、胸の奥がきゅっとなる。
でもそれは、不快でも悲しみでもない。
◇春海の感情吐露
春海:
『……自分の心の奥を、誰かが“言葉”にしてくれるなんて思わなかった。
なんか……泣きそうだった』
真白:
『俺も、布に触れたとき、そうだった。
染めた色のにじみとか、手のあととか、言葉にできないものが詰まってて……』
⚪︎二人、向かい合って笑う。
◇その夜:帰り道・川沿い
⚪︎春海が、ふと立ち止まり、空を見上げる。
春海:
『私、もう少し“外”を歩いてみたいって思った。
今まで、世界は怖いものだったけど……
真白さんの言葉を読んで、“繋がれる”って思えた』
⚪︎真白は春海の手を取る。
真白:
『俺も、君の布に背中を押された。
ずっと“自分には継げない”って思ってたけど……
“届けたい”って初めて思った。俺の物語を、誰かに』
(春海)
書く人と、染める人。
違う手の中に、それぞれの“表現”がある。
でも、その先に描きたいのは、きっと、
同じ“未来”だった。



