お悩み解決部が活動を開始して次の日。
さっそくお悩み相談BOXに一枚の紙が入っていた、のだけれど……。
放課後、私たち三人は図書室にいた。
「なあんだ、せっかく初めての相談ごとかと思ったのに」
少し頬を膨らませて、五月くんは手に持っていた本を棚に入れる。
「まぁまぁ、これも一応お悩み解決部の活動だよ」
それをなだめながら、私も同じように本を棚に戻した。
私たちお悩み解決部に寄せられた、最初の相談メモは、『図書室の在庫整理を手伝ってほしい』というものだった。
その紙を書いてお悩み相談BOXに入れてくれたのは、図書室の司書の先生。
ちょうど手が足りなくて困っているところに、私たちの作った、お悩み相談BOXを見つけたんだって。
そうして私たちは放課後、図書室にやってきて在庫整理のお手伝いをしているの。
「しゃべってないで手を動かせよ。終わらないぞ」
蓮詞の声に、「はーい」と私たちは返事をする。
ぼろぼろになってしまって手直ししていた本を棚に戻したり、在庫のチェックをしたり、補正が必要なものをよけたりと、やることはたくさん。
私たちは分担して、もくもくと作業を進める。
私の5秒先の未来を見る能力も、五月くんの高速移動も、全然使う要素はないけれど、これだって困っていた司書の先生の役に立てているのだから、立派な活動のひとつだ。
三人でせっせと作業を進めていると、私の脳内に突然鮮やかな映像が流れ出す。
「え……?」
それはこの図書室でのこと。
私は棚に本を戻していて、その私の頭に上の棚から本が落ちてくるというもの。
この映像は、これから私に起こる未来だ。
はっと現実に意識を戻して、上の棚を見上げると、まさに本が落ちてくるところだった。
よけなきゃ!と思っている間にも、落ちてくる本はぐんぐんと私に距離を縮めていて、これは間に合わないかも、とぎゅっと目をつむる。
すると誰かが私を力強く抱きしめた。
それから、「いてっ」と声が聞こえて、私は目を開ける。
目の前には五月くんの顔があって、私はすぐに五月くんが私をかばってくれたんだって気が付いた。
「五月くん、平気!?」
「平気!平気!気が付くのが遅れてよけられなかったけど、桜彩は守れた。怪我、してないか?」
「私は全然大丈夫だよ!痛かったよね?ごめんね!」
「言っただろ?桜彩が怪我しないように守るって。これくらいなんともないから、気にすんなって」
五月くんはいつものように、にっと笑う。
抱きしめられたままになっていることに気が付いて、私は慌てて離れようとして。
あれ……?なんだろう?この感覚……?
五月くんに抱きしめられるのははじめてのこと。
当然そのはずなのに、なにか違和感をおぼえた。
「あ!ご、ごめん!急に触られてびっくりしたよな!?」
私が少しぼうっとしてしまっていたのを、なにか勘違いしたように慌てる五月くん。
「ううん!助けてくれてありがとう!」
五月くんは私の言葉にほっとしたように胸をなでおろす。
「よかった……けど……」
五月くんは自分の後ろを振り返って困ったように眉を下げた。
「この本、どこにどれが積んであったんだっけ……」
仕分けされていた本が、床に崩れてしまっていた。
「すげー勢いで桜彩のとこまできたから、その勢いで本が倒れちゃったのかも……。悪い、また仕分けし直しだ……」
落ち込む五月くんに、私は笑顔を向ける。
「そんなこといいんだよ!五月くんは私を心配して助けてくれた。おかげで私はこの通りすっごく元気!だから仕分けなんてさくっと終わるよ!」
「悪いな、桜彩」
私と五月くんは散らばってしまった本を、再度仕分けていく。
「あれ、この本、さっき在庫チェックしたっけ……?」
在庫をチェックしたものはよけておいたはずなんだけど、この本をチェックしたかがわからない。
困っていると、蓮詞が私たちの方へ顔を出した。
「大丈夫か?なんかすごい音がした気がしたが……」
「あ、蓮詞。ごめん、仕分けた本がばらばらになっちゃって、どの本が在庫チェックして棚に戻す本か、わからなくなっちゃったの」
そう言うと、蓮詞は少し呆れたように眼鏡を上げた。
「今、桜彩が持っている本は在庫チェック済みで棚に戻すものだ。五月が持っているのは、まだ在庫チェックしていないやつだな。ぼろぼろだし、補修した方がいいだろう」
「ありがとう!蓮詞!」
私は蓮詞の指示通り、本を仕分けていく。
「蓮詞、すげーな。なんでそんなに覚えてるんだ?」
驚く五月くんに、蓮詞はまた眼鏡を上げて、少し誇らしそうに言う。
「俺は瞬間記憶能力を持っているんだ」
「瞬間記憶?」
「一度見たものは瞬時に記憶され、忘れない」
「すげー!」
蓮詞の説明に、五月くんは目をきらきらと輝かせる。
「そういえばこの前のお話、途中になっちゃってたよね。私の他に、なにか能力を持ったひとがいるかって話。蓮詞がそうだよ、瞬間記憶能力の持ち主!」
「そうだったのか!」
五月くんがあまりにきらきらとした瞳で見るせいか、蓮詞は少し照れくさそうに視線をそらした。
「ともかく、早く仕分けし直すぞ。その本は棚、それは在庫チェックまだ、それも棚だ」
蓮詞がテキパキ指示を出してくれたおかげで、あっという間に仕分けが終わって、私たちは無事、図書室の在庫整理の依頼を終えたのだった。



