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「桜彩、こんなところにいたのか。探したぞ」
「蓮詞!」

 幼なじみの蓮詞が疲れ切ったようすで教室に入ってきた。

「私になにか用だった?」
「英語のワーク、提出しろって先生が。昨日出し忘れたんだって?」
「あ!そうだった!今日提出する約束してたんだった!ありがとう、蓮詞!帰りに出すね」
「ああ、そうしてくれ」

 「桜彩を探しまわって疲れた……」と蓮詞は適当な椅子を引いて座る。

 蓮詞は勉強はものすごくできるけど、運動はからっきし。
 走るもの苦手だし、球技も苦手みたい。
 なんでもそつなくこなす蓮詞の唯一の弱点だ。

「で、旭日となにしてたんだ?」

 蓮詞の言葉に、「五月でいいよ!」と五月くんが声を上げる。
 その言葉に少し困ったような表情を浮かべる蓮詞。
 蓮詞と五月くんはタイプがまったく違うから、五月くんのテンションに蓮詞は少し戸惑っていそう。

「五月くんと部活を作ることにしたんだ!」
「部活?」
「うん!私、未来が5秒だけ見えることがあるでしょ?それをだれかの役に立てないかなって思って」
「んで、俺は高速で困ったひとのところに行ける。ふたりの力でなにかできないかなーって話してたんだ」

 私と五月くんの説明に、蓮詞は少し驚いたように目を丸くした。

「そうか、だからあのとき、桜彩を助けられたのか」
「そ!俺、すげー速さで走ることができるんだ!」

 五月くんの言葉に、蓮詞は少し悔しそうな表情を見せた。

「俺の足じゃ、到底桜彩を助けることはできなかった。そのことについてはその、まぁ、助かった」
「いいってことよ!つーか、なんで蓮詞がお礼を言うんだ?」
「桜彩の幼なじみとして、言ったまでだ」

 五月くんが不思議そうにきょとんとしているので、私がわって入る。

「ごめん、蓮詞ってば過保護でね。すぐ私の心配するの。気にしないで!」
「桜彩が無茶して怪我ばかりするのが悪いんだろ」
「あはは……ごめんごめん」

 私は苦笑いをこぼす。
 そんな私たちを見て、五月くんが明るく言った。

「蓮詞、もう心配いらねえよ」
「え?」
「桜彩は俺が守る。どんなに危ない場面でも、俺が高速で駆けつけて助けてやる」

 五月くんの言葉に、私と蓮詞は同じように目をぱちぱちさせる。

「それなら、蓮詞も安心だろ?」

 にっと笑う五月くん。
 私はそんな五月くんに感動して、ぱちぱちと手を叩いた。

「五月くん、かっこいいっ!ヒーローみたい!」
「だろ?」

 わーっと盛り上がる私たち。
 蓮詞は何故か眉間にしわを寄せて難しい顔をしている。


「俺も入る」


「え?」
「部活。立ち上げたんだろ?その部活、俺も入るよ」
「え!本当!?」
「マジ!?」

 蓮詞の唐突な入部発言に、私と五月くんは喜びの声を上げる。

「蓮詞がいてくれたら心強いよ!」
「だな!俺ももっと蓮詞と仲良くなりたかったから、すげーうれしい!」

 手放しで喜ぶ私たちに、蓮詞はぼそりとつぶやいた。

「……はぁ、まったくひとの気も知らないでのんきだな、本当」

 けれどそのつぶやきは、喜ぶ私たちの耳には届かなかった。