「ありがとう、五月」
「今度は助けられてよかったよ」
五月くんの言葉に、陽斗くんは首を振る。
「僕はいつも五月に助けられてたよ。どんなにリハビリが辛くても、五月が来てくれていたからがんばれたんだ」
「陽斗……」
「それにね、もうバスケはできないかもしれないけど、僕、他に夢中になれるものを見つけたんだ」
「夢中になれるもの……?」
私たちは揃って首を傾げる。
すると陽斗くんは、鞄からくまのぬいぐるみを取り出した。
「わあ!かわいい!」
私と椿妃ちゃんの反応に、陽斗くんは少し照れくさそうに笑う。
「これ、僕が作ったんだ。実は入院中に手芸をはじめたんだ。もともと暇で、暇ならなんか作れば?って姉に言われたのがきっかけなんだけど。けっこうはまっちゃって」
陽斗くんは五月くんにくまのぬいぐるみを見せながら言う。
「僕、また好きなものを見つけたんだ。もう元気だよ、大丈夫だよって、五月にも報告したかった」
五月くんは、一瞬泣きそうな顔を見せたけれど、いつもみたいに明るく笑った。
「すげーじゃん!陽斗、手先すげー器用だったもんな!……、本当によかった……」
「うん!」
それから五月くんと陽斗くんは近況なんかをおしゃべりして、すごく盛り上がっていた。
そんな様子を私たちは微笑ましく見ていたのだった。
陽斗くんと別れた五月くんは、照れくさそうにこちらにやってきた。
「えっと……、悪いな、みんな。迷惑かけたっつーか……」
私たちは揃って首を振る。
「迷惑なんて思ってないよ!仲直りできてよかったよ!」
「そうですね。今回も、お悩み解決です!」
「だな。ついでに五月の悩みも解決できたみたいでよかったよ。このままじゃ、部員である五月からも依頼がきそうだったからな」
蓮詞が少しからかうと、五月くんは「だから悪かったって」と頬を膨らませた。
「それと、桜彩。さっきはありがとな。桜彩のおかげで、また助けられた」
「ううん!五月くんが早くに動いてくれたおかげだよ!」
五月くんは私の目の前にやってくると、ふいに私をぎゅっと抱きしめた。
「え……?さ、五月くん……っ?」
「ええっ!?」
「な……っ」
五月くんが優しく私の耳元でささやく。
「本当にありがとう。桜彩が背中を押してくれたおかげだ」
五月くんに抱きしめられるのは、今回がはじめてじゃないのに、何故だか頬が熱くなる。
それに、この感じ……、以前も感じた……。
脳内に何故か過去の映像が流れ出す。
私が未来予知の能力に目覚める前。交通事故に遭った日のこと。
トラックにひかれる寸前の私を、誰かが間一髪助けてくれたときのこと。
ものすごい速さでやってきたその人は、私を守るように抱きしめて助けてくれた。
「……もしかして、五月くん……?」
私のつぶやきに、五月くんは私から離れる。
「もしかして、あのとき助けてくれたのは五月くんなの?」
「え?」
「私、八歳のとき、交通事故に遭いそうになって!それをものすごい速さできた男の子が助けてくれたの!もしかして、私を助けてくれたのは五月くんじゃない?!」
ものすごい速さ、なんてただの比喩表現だと思っていた。
けれど、五月くんの高速移動の能力なら、本当にものすごい速さだ。
五月くんは目をぱちぱちさせる。
「八歳……って、俺が能力に目覚めたときだ。交通事故に遭いそうな女の子……女の子……」
考え込んでいた五月くんは、「あ!」と声を出す。
「俺、助けたことあるかも!ちょうど能力に目覚めたばかりで、なにに使っていいのかもわからなかった。でもこういうふうに人助けにも使えるんだな、ってそのとき思ったんだ。もしかして、あれって、桜彩だったのか?」
やっぱりそうだったんだ!私を助けてくれたのは、五月くんだったんだ!
「うん!私だよ!あのときはありがとう!」
「そうか、そうだったんだな」
五月くんは驚いたように、けれどにこっと笑う。
「なんだよ、そのときから俺たちの運命って決まってたんだなー」
「え?」
「こうして俺と桜彩が一緒にいる運命!」
運命って言葉でいいのかなと悩んでいた五月くんはまた明るく笑う。
「桜彩、マジで感謝してる!俺のしてたことは無駄じゃなかったって思えた。俺はもう、俺を責めなくて済むんだ」
「うん!そうだよ!五月くんのしてることはすてきなことだもん!あ、でも!これからも――」
「はいはいわかってるって。自分を大事に、だろ?もう無茶はしないよ。それに――」
五月くんは私の手をぎゅっと握る。
「その未来予知の力で桜彩が守ってくれるんだろ?」
「うん!もちろん!」
にっと私と五月くんは笑い合う。
「これからもよろしくな!」
「うん!」
差し出された拳に、自分の拳をこつんと当てた。



