それから週末まで、五月くんはバスケ部として練習に参加することになった。
その間のお悩み相談は、私、蓮詞、椿妃ちゃんの三人で解決した。
大きなお悩みもなかったので、お話を聞いたりお手伝いをしたり。
それが終わると私は、体育館へと向かった。
中からボールが弾む音が聞こえる。
「お邪魔しまぁす……」
体育館の扉に手をかけ静かに開けると、私の脳内に鮮明な映像が流れ出す。
扉を開けた瞬間、私の目の前に迫るバスケットボール。
避けるのも間に合わず、ボールが私の頭に当たり跳ね返る映像。
これは5秒後に起きる未来。
はっと意識を戻すと、私の手はもう体育館の扉を開けていて、遠くから「やべっ!」という声が聞こえて、ちょうどこちらにボールが飛んでくるところだった。
あちゃあ、と瞬時に思う。
未来を予知できても、やっぱりうまく身体がついてこないことがほとんどで、きっと多分今から少しでも動けば、頭に当たることはないと思う。
それでもきっと身体のどこかには当たってしまう。
こういうとき、五月くんみたいに高速移動があったらなぁ、なんて思ってしまう。
私は気持ち身体をずらして、ボールの衝撃に備えた。
すると身体がふわっと浮かび上がって、気が付けば私の身体は横になっていた。
あれ……?この感じ、どこかで……?
ドンっと大きな音が聞こえて、真後ろからこれまた大きな声が聞こえる。
「いってぇえっ……!!」
目の前にころころと転がるバスケットボール。
私は一瞬なにが起きたのかわからなかった。
けれど私のお腹には五月くんの手が回っていて、すぐに理解する。
五月くんが高速移動で助けてくれたんだ……!
けれど、私を助けた反動で、五月くんは壁に身体を打ちつけてしまったのだ。
「五月くん!大丈夫!?」
私は慌てて起き上がると、腰を抑える五月くんに声をかける。
「平気平気!こんくらい!……いててっ」
体育館の奥にいたはずの五月くんはきっと、私にボールがあたってしまうとわかってものすごい速さで私のもとにきてくれたんだと思う。
だからその勢いがころせずに、壁にぶつかってしまった。
「桜彩は無事か?」
腰を抑えながら立ち上がった五月くんは、私へと手を伸ばす。
「私は全然大丈夫!五月くんこそ、無茶しすぎだよ……」
「そりゃ無茶もするだろ。桜彩に怪我させたくないし!」
にこっと笑う五月くんに、私はいつかも感じた不安のようなもやもやした気持ちを思い出す。
「助けてくれたのはもちろん嬉しかったけど、でも自分も大事にしなくちゃ!五月くんが怪我しちゃうよ!」
私の言葉に五月くんはなんでもないことのように笑って返す。
「俺のことはいいんだよ。この力は誰かを助けるのに使うべきなんだ。だから俺が怪我するのは別にいい。助けた誰かが元気なら、それでいいんだ」
「そんな……」
そんなのっておかしいよ。
こんなことを続けていたら、五月くんがいつか大きな怪我をしてしまう。
そうだ、この前小さな子を助けたときに感じた違和感。
五月くんはきっと、これからも自分の身をかえりみず困っているひとを助けに行く。
落ちてくる本から私をかばってくれたときもそう。
五月くんは自分が傷つくことをなんとも思わないんだ。
でもそれじゃ、五月くんのピンチは誰が助けるの?
それができるのはきっと、私だけ。私が守らなくちゃ。
いつものように明るく笑う五月くんに、もう怪我をさせたくないって、私ももっと能力を生かさなきゃって強く思った。
それに、五月くんに助けられたときに感じた違和感。
あれは、なんだったんだろう……?
私はぱっと顔を上げて、五月くんに宣言する。
「五月くん、助けてくれてありがとうっ!」
「お、おう?」
「不甲斐なくてごめんね!これからは私が五月くんを守るから!!」
「え、……え?」
五月くんは私の言葉に目を丸くしていた。
これ以上、五月くんが無茶しないように止められるのはきっと私だけもん。
私だって、いつまでも守られてばかりは嫌だよ。
五月くんの力になりたい。
私はこのとき、心に強く誓ったんだ。



