「学校の七不思議5、音楽室に飾られている音楽家の肖像画の目が動く」
「マジ?モナ・リザじゃん」
音楽室にやってくると、何故か黒のカーテンが閉まっていて、部屋は真っ暗だった。
パチンと電気を付けると、黒板の上にずらりと並んだ音楽家たち。
「私、音楽には少し詳しいですよ!クラシックが好きなので!」
そう言った椿妃ちゃんは、音楽家たちを一人ずつ紹介してくれる。
「ベートーヴェン、ラヴェル、モーツァルト、バッハ、リスト、滝廉太郎、サンサーンスもいます!」
「へえ!北條さん、詳しいな!」
「まぁ、どの音楽家も目は動いていないみたいだな」
冷静に蓮詞がつぶやくと、突如ピアノの音が聞こえ始めた。
びくっと肩を揺らす蓮詞。
「大丈夫だよ、蓮詞。私が守るからね!」
「い、いや別に怖いわけじゃない。急に鳴るからび、びっくりしただけだ」
少し焦ったように眼鏡を持ち上げる蓮詞。
「つーか誰も弾いてないのになんで音が鳴るんだ?」
「不思議ですねぇ……」
「これが学校の七不思議の6、だな。音楽室のピアノがひとりでに鳴り響く」
私がピアノの周りをうろうろしていると、足元に小さなラジカセを見つけた。
「あ!ここから音楽が流れてるよ!」
「なあんだ、CDが流れてただけか」
そんなこんなであっという間に六つの七不思議が終わってしまった。
「なんかどれもぱっとしなかったなー」
「そうですね。やはり噂は噂、といったところでしょうか……」
「でもこれで安心だね!相談をくれた人は、きっと私たちが解明したことでほっとできるはずだよ!」
「だな!なんかレポートとかにまとめて、廊下にでも貼っておくか!相談くれた人も見てくれるかもしれないもんな」
調査も終わりに近づいて、私たちは少し気の抜けたように歩く。
「それで七つ目はなんなの?」
歩きながら蓮詞に尋ねる。
「学校の七不思議七つ目は、わからないんだ」
蓮詞の言葉に、私たち三人はきょとんと目を丸くする。
「蓮詞も知らないんだ?」
「七不思議の七つ目は、知ってはいけないんだ。すべてを知ってしまうと災いが起きると言われている」
蓮詞の言葉を聞いた瞬間、私の脳内にとある映像が浮かび上がる。
今まさに歩いている廊下だ。
階段を上がろうと廊下の角を曲がろうとしたとき、蓮詞の額にぺたりとなにかこんにゃくのようなものが張りついて、そして白い布を被った集団が現れる。
それに驚いた蓮詞が、後退ってそのまま壁にぶつかりそうになって……。
というところで映像は途切れてしまった。
これは、5秒後に起きる未来。
私はそう直感する。
「五月くん!蓮詞を助けて!」
私の言葉に、前を歩く蓮詞が振り返る。
五月くんは詳細をなにも聞くことなくすぐに動くと、蓮詞を抱きかかえて、ものすごい速さで後方へと飛び退る。
そうして一番前になった私と椿妃ちゃんの真横を、ぶら下げられたこんにゃくが通り過ぎる。
その後ろから白い布を被った三人の生徒が現れる。
生徒だとわかったのは、上履きを履いた足元に、白い布からズボンがちらりと見えていたからだ。
椿妃ちゃんがすぐに私をかばうように前に立って、その拳を振り上げる。
「おばけ、退治しますっ!!」
そう言って今にもものすごい力で拳を振り下ろそうとする椿妃ちゃんに、必死に声をかける。
「待って!椿妃ちゃんっ!」
びゅんっと風を切るような音がして、椿妃ちゃんは白い布を被った生徒の顔の目の前で拳を止める。
「この子たち、ふつうに生徒だよ」
椿妃ちゃんの拳が目の前で止まった生徒は、ぺたんと尻餅をつく。
他の二人も怯えたように、被っていた白い布から顔を出した。
その顔は、見慣れたクラスメイトのものだった。
「あれ?佐藤くん、鈴木くん、山田くんだ」
クラスメイトの男子三人組。いつも仲が良くて、三人一緒の佐藤くんたちだった。
「もしかして、お悩み解決部に相談のメモを入れたのは、佐藤くんたち?」
私が尋ねると、佐藤くんはこくこくとうなずく。
「な、なんか面白そうな部活はじめたって聞いて、興味があったんだ……。だから少し、ちょっかいかけてみたっていうか……」
「俺たちをからかったのか?」
五月くんにお姫様だっこされたままの蓮詞が、ひどく冷たい声を出す。
「あ、いや、なんていうか……、ちょっとしたおばけ屋敷ごっこ的な……」
蓮詞の圧にもごもごと説明する佐藤くんたち。
「人を驚かしたりして、怪我でもしたらどうするんですか!」
椿妃ちゃんが三人にきつく言うと、三人はしおしおと頭を下げた。
「ごめんなさい……」
「まぁまぁ、椿妃ちゃん。でも危ないから、もうこういうことはしちゃだめだよ?」
私が言うと鈴木くんが、「未来さんは優しい……」とぽつりとつぶやいて、椿妃ちゃんににらまれて小さくなっていた。



