「学校の七不思議1、トイレの花代さん。特別教室棟三階の女子トイレ、右から三番目の個室の前で三回ノックした後『花代さん、遊びましょ』と呼びかける」
「なぜ数字の三にこだわるのでしょうか?」
「たしかに!」
「七とかのがいいよな!なんかラッキーセブンって感じで!」
「七不思議にラッキーもなにもないだろ……」
女子トイレには当然私と椿妃ちゃんが入ることになった。
「きゃあ、私、怖いですぅっ」
そう言って椿妃ちゃんは私に抱き着く。
「大丈夫だよ~花代さんなんていないよ!」
幽霊の存在を信じていないわけではないけれど、花代さんとか花子さんとか花太郎くんとか。同じような噂はきっとどこの学校にもあって、本当にいるのならかなり忙しいと思うんだ。だから私はめったに会えないと思ってる。
きっと今日もうちの学校にはいないだろうな、って思いながら、右から三番目の個室の前にやってくる。
何故かちょうど個室は閉まっていて、乱雑な文字で『故障中』と張り紙がされていた。
「コンコンコン、花代さん、遊びましょ!」
私は蓮詞から聞いた噂通りの言葉を唱える。
すると。
「はあいぃぃ……」
としゃがれたような声が聞こえてくる。
「えっ……」
私が驚いていると、椿妃ちゃんが「おりゃあっ!」と言ってトイレの個室を思いっきりパンチした。
ガタンっ!と大きな音がして、小さく「ぎゃ」みたいな声が聞こえた気がする。
それからは呼び掛けてもしんとするだけで、特に異変はなかった。
「桜彩ちゃん、やっぱりなにもいませんでしたね?」
椿妃ちゃんはにこりと微笑んだ。
「学校の七不思議2、特別棟の階段の段数が増えている」
「階段の数ってそんなに急に増えるものなの?」
「突貫工事ってやつか?」
「数え間違いではないでしょうか?」
さっそく階段の段数を数えてみる。
「一、二、三……、蓮詞、本当は何段あるんだっけ?」
「十二段だ」
「十一、十二、……え、十三……。十三段あるよ!」
私が慌てていると、椿妃ちゃんがちょこちょこと階段を上ってきて。
「十一、十二。十二段です。桜彩ちゃんの数え間違いですね?もうおちゃめさんっ」
「あれ?そうだった?十二段だった?」
というわけで階段は増えていなくて十二段だった。
「学校の七不思議3、生物室の人体模型が動く」
生物室にやってきた私たちは、室内を見回す。
「あれ?人体模型ないよ?」
「そういえば見たことないよな?」
「昨日授業で人体についての単元に入りましたが、タブレットにデータが入っており、その中で臓器を見たり位置を確認したりしましたよ」
「今時人体模型って置いてないんだなー」
こちらは人体模型自体がなかった。
「学校の七不思議4、四時四十四分に鏡を覗くと鏡の中にひきずりこまれる」
特別棟の渡り廊下前にある大きな鏡の前にやってくる。
「いやいやさすがにそれは無理じゃね?」
「まぁ物理的に無理だろうな」
鏡の前に立って鏡に触れてみるも、固い鏡面があるだけだった。
「なにも起きなさそうだねぇ」
鏡に映る私も、同じように口元を動かしてそう言った。
「鏡越しの桜彩ちゃんもかわいいです!」
「えへへ、ありがとう~」
時間になってもやっぱりなにかが起こることはなかった。



