そのお悩み、私たちの能力で解決します!



 夢を見る。

 いや、これは夢じゃない。過去の記憶だ。
 俺がずっと後悔し続けている、過去の記憶。

 地域のスポーツセンターの体育館。バスケのユニフォームを着た俺。
 帰り道、自転車、角から突然現れる車。
 夢でも、結末は現実と同じ。変えることはできない。
 そして俺の後悔も、消えることはない。

 そうして目が覚めて、ため息をついてから起き上がる。



「先生―、俺たちお悩み解決部を雑用係だと思ってませんか?」

 俺がそう文句を言うと、担任の餅月先生はからからと笑う。

「なにを言う!これは先生からの立派な相談事だぞ!ぜひともお悩み解決部に解決してもらいたい!」
「って、言ってもなぁ……」

 餅月先生から頼まれたのは、中庭の草むしりだった。
 俺たちお悩み解決部は、ジャージに着替え、軍手をはめてしゃがみながら草をむしっていた。

「業者さんに頼むにもそこまで生えているわけじゃないし、ちょうど手伝ってくれて助かるよ」
 先生はまた楽しそうに笑う。

「まぁ、これも人助けっちゃあ人助けか?」

 俺としては、もっと自分の能力をいかせるようなことがしたいんだけど、先生の役に立ってるならまぁいいか、と草をむしり続ける。

「私は結構草むしり楽しいかも!どんどんきれいになっていくの見るの楽しい!」

 桜彩がにこりと話しかけてくる。
 この子はいつだってにこにことしていて、楽しそうだ。
 5秒先の未来が見える力を持っているせいなのか、何事にも物怖じしない。
 こっちにまた引っ越して来て、はじめて出会ったのが桜彩だった。
 いつも明るくて楽しそうな彼女を見ていると、自然とこっちまで笑顔になる。

「五月くんのところ、手伝うね!」
「ありがとな!」

 桜彩はにこっと笑う。
 その後ろを慌てたように北條さんがついてくる。

「桜彩ちゃんがそっちの草むしりをするなら、私もそこがいいです!」
「あ、いや、ここは俺と桜彩がやるから……」
「北條、四人で固まって草むしりしてどうする。散らばって作業した方が効率的だろう」

 そう言いながらなんだかんだ蓮詞もこちらにやってきて、結局四人で同じ場所の草をむしる。

「おーい、こっちも手伝ってくれよ~」
 先生が少し寂しそうに声を上げている。

「ここが終わってからそっちに行きます!今は桜彩ちゃんと一緒がいいんです!」
「椿妃ちゃん、ちょっと近くて草がむしりづらいよ~」
「二人とも早く手を動かせ。陽が落ちるまでに終わらないぞ」

 困ったような表情を浮かべながらも、やっぱり桜彩は楽しそうだった。


 桜彩を見ると思う。
 もしあの場に、桜彩がいてくれたなら。
 もしかしたら、なにか変わっていたんじゃないかって。


「五月くん?」

 ぼうっとする俺の顔を覗きこむ桜彩。

「悪い!ぼうっとしてた!早く終わらせような」
「うん!終わったら先生がお菓子くれるって!」
「マジ!?」
「おーい、未来。俺そんなこと言ったかー?」

 先生の声を都合よくスルーして、俺たちは草むしりを続ける。

 四人で集まって草むしりをしたところだけが、やたらときれいになっていた。