「こんにちは……、って、なにかあったのですか?」
「あ、それがね」
私は陸上部の子がマットを運ぶのが重くて大変で困っていることを、北條さんにも伝えた。
「時間、かかりそうですか?」
「このマット、三つ運ばなきゃいけないから少しかかるかも」
私がそういうと北條さんは、「そうですか……」と困ったような表情を見せてから、こちらに駆けよって来る。
「私が運びます!」
「手伝ってくれるの?ありがとう!」
北條さんの細くてきれいな手が汚れないかな、とか重くて運べるかな、なんて思っていると、北條さんは言う。
「私がひとりで運びます」
「え?」
「未来さん、藤村くん、旭日くんも下がっていてください」
北條さんはそういうと、大きな高跳び用のマットをひとりで軽々と持ち上げてしまった。
それをそそくさと校庭に運んで、あっという間に三つのマットが校庭に並ぶ。
陸上部の女子生徒たちは北條さんへ何度も頭を下げていた。
残された私と五月くん、蓮詞はぽかんと口を開けていた。
「お待たせしましたっ」
北條さんは何事もなかったかのように爽やかに戻って来る。
「お、重くなかったのか?」
五月くんがおそるおそる北條さんに尋ねる。
「はい、全然!」
目をぱちくりさせる私たちに、はっとした様子の北條さん。
「あ、あの……私、変ですよね?実は昔からひとよりもすごく力があって、重い荷物を簡単に運べたり、持ち上げられたりできるんです。恥ずかしいので、あまり使わないようにしていたんですけど……」
説明してくれる声が段々と小さくなって、北條さんは自信なさそうにうつむく。
私は目をかがやかせた。
「すごい!すごいよ北條さん!」
「え?」
「重いマットを軽々持ち上げちゃうなんてかっこいい!すっごく助かっちゃった!ありがとう!」
「マジですげーよ!それって北條さんの能力?」
「怪力の能力か。また俺たちとは違うものだな」
「え?え?」
北條さんは私たちの言葉にあわあわとそれぞれの顔を見ている。
「えっと、皆さんもなにか不思議な力を持っているんですか?」
「うん!私はたまに未来を見ることができるよ」
「俺は高速移動!すげー速さで走れる!」
「俺は瞬間記憶能力を持っているが、まぁ、そこまで大したものじゃない」
「そう、だったんですね……!」
北條さんは驚いているようで目をぱちくりとさせている。
「私は小さい頃から馬鹿力だと言われて、両親からも外では使わないよう言われていたんです。女の子がそんな力技見せるもんじゃないって……」
「そんな!北條さんのおかげで陸上部の子も喜んでたよ!女の子だからとか男の子だからとか関係ないよ!北條さんの力、すごくかっこいいよ!」
私の言葉に、北條さんは一瞬泣きそうに顔をゆがめた。
「そう、ですか……かっこいい、ですか……」
「うん!」
私は力強くうなずく。
北條さんは自身の手をぎゅっと胸の前で握る。
「そんなふうに言ってもらえたのは、はじめてです……。ありがとうございますっ!」
嬉しそうな笑顔の北條さんにつられて、私も笑う。
「って!そうだ!ラブレター!渡すんだよね!もう来るんじゃない!?」
体育館裏に来て、もう三十分くらいが経つ。
北條さんの想い人が来てもおかしくない頃合いだ。
「はい、もう来ています」
北條さんの言葉に、私は辺りを見回す。
「えっ!えっ!どこ!?」
けれど、私、北條さん、五月くん、蓮詞の他に、体育館裏に人影はなかった。
「え?北條さん、そのひとは一体どこに……」
私が北條さんへと視線を戻すと、目の前にラブレターが差し出されていた。
「え……?」
椿柄の便せんに、うさぎのシール。それは昨日、地学準備室で書いたものだった。



