翌日、私はそわそわしていた。
今日の放課後は北條さんが想い人にラブレターを渡すことになっている。
「うわぁ~!緊張するよう~!!」
給食の時間。
机を四つくっつけて、班ごとに給食を食べる。
ご飯をもりもり頬張りながら、私はドキドキしていた。
隣に座る蓮詞が呆れながら私を見ている。
「桜彩、本当に緊張しているのか?その割にはご飯をもりもり食べているんだが……」
「緊張するよな!わかる!」
そう言いながら私の向かいの席に座る五月くんもご飯をもりもり頬張っている。
その様子をやっぱり呆れたように見つめる蓮詞。
「大体、なんで桜彩と五月が緊張する必要があるんだ。渡すのは北條だろ」
「そうだけどさぁ、だって北條さんにはうまくいってほしいんだもん!悲しい思いはしてほしくないよ……」
「まぁ、そうだな」
北條さんが昨日一生懸命書いてたのを見てたんだもん。
想いが伝わってほしいって、そりゃ思っちゃうよ。
五月くんが立ち上がる。
「平気だって!絶対にうまくいく!なんてったって俺らがついてるしな!」
「うん!」
「じゃ、おかわりしてくる!」と五月くんは配膳机に向かう。
五月くんを見て、蓮詞は浅くため息をついた。
「なんだか桜彩が二人になったみたいだ……」
「え?」
「なんでもない」
放課後。
私と五月くん、蓮詞は約束の場所である体育館裏へと向かった。
「はー、ドキドキするっ」
私が胸を抑えていると、「だから桜彩が渡すんじゃないだろ」とまた蓮詞に言われる。
蓮詞はどんなときでもクールだ。
「蓮詞は恋したことないの?女の子にとっては一大イベントなんだよ?」
「したことないけど」
「したことないの!?あんなにモテるのに」
「今はそういうのはいいよ。そういう桜彩はどうなんだ?どうせしたことないだろ、恋」
蓮詞にずばり言われて、私は唇を尖らせる。
「まぁ、したことないですけどもぉ」
憧れてはいるよ?もちろん。ただどういう気持ちが恋なのか、いまいちビビッと来たことがないというか……。
「五月くんは?好きなひといる?」
私が話題を五月くんに投げると、五月くんは元気よくうなずく。
「いるよ」
「え!いるの!」
「桜彩と蓮詞!」
その言葉に、「なあんだ」と息がもれた。
「きっとそれは恋とは違うよ。好きは好きでも友達としての好きだよ、きっと」
「まぁ、そうか?」
私の言葉に五月くんは首をひねる。
そんな話をしているとあっという間に体育館裏に到着。
北條さん来てるかな、と体育館裏を覗くと、そこにはジャージ姿の三人の女子生徒たちがいた。
みんななにか困ったみたいに、眉間にしわを寄せている。
「どうかした?」
その中のひとりに、五月くんが声をかける。
女子生徒は、困ったように眉を下げた。
「それが、これを運ばなくちゃいけないんだけど、三人で運ぶには重くてなかなか持ち上がらなくて……」
女子生徒の目線の先には、体育倉庫があって、その中に大きなマットがあった。走り高跳び用の大きなクッションだ。
女子生徒たちは陸上部員らしい。
「いつもは四、五人で運んだりするんですけど、三人で運ぶにはどうしても重くて……」
彼女たちの話によると、いつもは男子に手伝ってもらったり、部員みんなで運んだりすのだそう。
しかし今日は男子が測定会のため手伝いができず、他の部員も到着が遅れているのだとか。
「早く準備を済ませて、練習に入りたいんですけど……」
困る女子生徒たちに、私と五月くんは言った。
「それなら私も手伝うよ!」
「それなら俺も手伝うよ!」
私と五月くんは顔を見合わせて笑う。
「だよな!」
「うん!」
私たちはお悩み解決部。
困っているひとの手助けをするのが活動目標だ。
蓮詞も浅くため息をついてから眼鏡を上げる。
「さっさと終わらせるぞ」
「うん!」
そんなふうにバタバタしていると、体育館裏に北條さんが顔を出した。



