「で、北條さんが気持ちを伝えたいひとって、どんなひとなの!?」
私が問いかけると、北條さんの肩がびくっと揺れる。
「ごめん、ちょっとぐいぐい聞きすぎたかな?」
「あ、いえ、そんなことは……」
北條さんは少し困ったように地学準備室を見回す。
きっと緊張しているんだろうな、って思って、私はあたりさわりないお話からすることにした。
「そういえば、北條さんは蓮詞と塾が一緒なんだってね?」
「あ、はい……。藤村くんとは去年から塾のクラスが一緒なんです」
「そうなんだね!あ、敬語じゃなくて全然大丈夫だよ!気楽に話して!」
私の言葉に蓮詞が答える。
「それは俺も以前に言った。北條はこの言葉遣いが一番話しやすいんだと」
「そうなんだ!?」
「はい、ですのでお気になさらないでください」
ふわっと微笑む北條さんはすごく気品があってきれい。
もしかしたらどこかのお嬢様とかなのかも!
「んで!その好きなひとには、いつどこで会ったんだよ?」
五月くんが北條さんにずばっと聞く。
それは私もすごく聞きたかったことなので、心の中で五月くんにグッジョブ!と親指を立てた。
「ええっと……」
北條さんは少し頬を赤らめて、ぽつぽつと話し出す。
「あれは、小学校五年生の時です。私は昔から少し引っ込み思案というか、自分の意見をうまく言えないことがあって。今もそれはあまり変わっていないのですけれど……」
北條さんの話に、私たちは静かに耳を傾ける。
「その日も、私はとある男の子にからかわれていました。声が小さいとか、はっきりしゃべれよとか、教室でもそうだったのですが、その男の子は私にやたらと絡んでくる子でした」
「その男子って、北條さんのことが好きでかまってほしかっただけじゃね?」
「だとしても、好きな相手にすることじゃないだろ」
「うんうん!」
五月くんと蓮詞の感想に、北條さんもうなずく。
「はい、今思えば、もしかしたらそうだったのかもしれません。けれど、当時の私にとってはすごく嫌だったのです。そんなときでした、あのひとが私の前に現れたのは」
北條さんはそのときを思い出すかのように、目をきらきらと輝かせる。
「そのひとは、私の前にさっそうとやってくると、男の子との間に立って、私をかばったのです」
『嫌がってるのわからない!?そんなことしてても、女の子は振り向いてくれないよ!』
「そのひとの言葉に、男の子はそそくさと帰っていきました」
『大丈夫?もう嫌なやつはいなくなったからね』
「そう言って、私の頭をなでてくれたのです。それきり会っていなかったのですが、思い返すたび、そのひとへの想いが募るばかりで……。私はこの気持ちが、恋だと知ったのです」
ひゃあ~!と胸キュンする私と五月くんに対して、蓮詞はなにかあごに手を当てて考えこんでいる。
「同じ小学校ではなかったけれど、通学路が同じだったことから、きっと近所の方だと目星をつけました。そうして私はとうとう、その方を見つけたのです」
「それでラブレターを送ることにしたんだね」
「はい!」
三年間の片想い。その想いを伝えようとしている北條さん。
これはなにがなんでも成功させたい!
「よおしっ!想いが伝わるラブレターを書こう!」
「おう!」
「よ、よろしくお願いします!」
盛り上がる私たちに、蓮詞はやっぱりなにか考えてこんでいるかのように上の空だった。



