「うう……今日花壇の水やり当番だったの忘れてたよ……」
放課後。一目散にお悩み解決部の部室である地学準備室に行こうと思ったんだけど、今週は美化委員会の花壇の水やり当番だったことを思い出した。
思い出せたおかげで当番をサボらずに済んだけれど、早く北條さんのお話を聞きたくてうずうずする私。
恋のお悩みなんて、すごくすてき!
私はまだ恋をしたことはないんだけど、少女漫画は大好きでよく読んだりするんだ。
恋する気持ちってきらきらしていて、すっごく憧れちゃう。
「私もいつか、好きなひとができるのかなぁ……」
そんなことを考えながら、美化委員会の仕事を終わらせて、ダッシュで地学準備室へと向かう。
先に五月くんと蓮詞が話を聞いてくれているはずだから、もうラブレターを書きはじめていたりするのかな?
足取り軽く地学準備室へやってきた私は、そのドアをコンコンと叩く。
「お待たせー!」
教室に入ると、五月くんと蓮詞がひとりの女の子を囲むように座っていて、難しそうな顔で机の上の便せんを見ていた。
私の登場に、三人はぱっと顔を上げる。
きれいな黒髪の女の子が、私を振り返った。
この子が、北條 椿妃さん……。
北條さんはすっごく美人さんだった。
長い黒髪は毛先までつやつやで、目が大きくて、桜色のくちびるも、高い鼻もとても整っていた。
北條さんは私を見ると、驚いたように目を丸くした。
「おう!桜彩!遅かったな!」
「先に進めているぞ」
「うん!お待たせ」
五月くんと蓮詞に返事をして、私は改めて北條さんに向き直る。
「はじめまして。私、二年二組の未来 桜彩です。お悩み解決部の部員です!」
自己紹介すると、何故か私の顔を見てフリーズしていた北條さんは、ようやく弾かれたように動き出した。
「ほ、ほ、北條 椿妃、です……。あ、あの、今日はよろしくお願いします……」
「北條さん!よろしくね!」
「は、はい!」
北條さんはなんだか少し照れくさそうに視線を外す。
ちょっと緊張してるのかも……?
それはそうだよね。好きなひとがいるって話もきっと話すのに勇気がいっただろうし、ましてやラブレターってことは想いを伝えるわけだもんね。緊張しない方がおかしいよ。
「桜彩、ここ座れよ」
「ありがとう!」
五月くんが椅子を持って来てくれたので、私は五月くんと北條さんの間に座る。
すると北條さんがものすごい勢いで蓮詞の方にずれた。
蓮詞が困ったようにつぶやく。
「北條、近い……、ていうかこっちが狭いんだが」
「ご、ごめんなさいっ!藤村くんっ!」
わたわたする北條さんは美人さんだけれど、性格はなんだかかわいらしい。
「北條さんって、かわいいね?」
そう五月くんにこっそり話すと、五月くんは不思議そうに首を傾げて。
「かわいい?まぁ、そうか?桜彩もすげーかわいいけど」
とさらりと言った。
まさか自分がかわいいなんて言われると思っていなかったから、私は目をぱちくりさせてしまった。
五月くんって、実は女の子を喜ばせるのがうまい?
にこにこ笑う五月くんを見て、うん、これは確かに好きになっちゃうひと多そうだななんてことを思った。
ばたばたしつつも、私たちは北條さんの相談事の解決に向けて、話しはじめたのだった。



