レナとまほうの歌のプリンセス~いっしょに歌えばみんな友だち!~

 食後の紅茶を楽しんでいると、カノン姫がそっと問いかけてきました。
 
「……ねえ、聞いてもいいかしら。どうしてわたくしとお友だちになりたいと思ったの?」
 
 カノン姫の指が小さく震えていました。きっと緊張しているのです。なので、レナもきちんと答えようとカップをソーサーに置いて答えます。
 
「私も……カノン姫と同じなんです。仲良しのアイネちゃんとクラス替えで別れちゃって……新しいクラスには、もうお友だちがいる子ばかりだから、うまくなじめなくて。だから、カノン姫の気持ちがわかるんです」
「レナさんも、わたくしとおなじ?」
「そう。そうなんです」
 
 カノン姫が目をまん丸にしました。
 
「わたくしも、アルトとずっと一緒にいたの。なんでも話せて、こうしてお菓子を食べたり、お泊まりしたり。大人になっても、ずっとこうして暮らせればいいのにって思っていたのよ。だけど、アルトはお家の事情でカデンツァ王国を出ていってしまったの」
「わ……私もそうです! 私も、アイネちゃんとは保育園のころからのお友だちで、毎日遊んで、お勉強して、ずっと一緒だったんです。でも今回のクラス替えで離れ離れになっちゃって。レナは優しいからみんながレナとお友だちになりたいはずだよって、アイネちゃんは言ってくれたんですけど、そんなのウソ……だって、周りの子に話しかける勇気ひとつないんだもの」
「わかる……わかるわ!」
 
 カノン姫はレナの手を取りました。
 
「自分を見ているみたいでびっくりするわね。でもレナさん、あなたは自分で思うより、ずっと魅力的な女の子よ。そのアイネちゃんが言うとおり、優しいレナとみんながお友だちになりたいに決まってるわ」
「そ、そうですか? カノン姫にそう言われると……元気が出ますね」
 
 カノン姫はゆっくり首を横に振りました。
 
「敬語はやめて。あと、わたくしのことはカノンと呼んでちょうだい」
「じゃあ、わたしのこともレナって呼んで。さん付けはしなくていいよ」
「ええ。……レナ」
「なあに? カノン」
 
 手を取り合ったまま、レナとカノンは見つめあいます。
 そこに、トトが紅茶のお代わりを持ってきました。
 
「ふふ、ふたりとも気づいてますか? アイネちゃんやアルトさんとしかおしゃべりできないって言ってたのに……今はずっと、ふたりでおしゃべりしてますよ」
「あっ」
「まあ」
 
 レナとカノンはふたり同時に声を上げます。
 
「レナ。わたくし、あなたにひどいことを言ったわ。それなのに図々しいって思うかもしれないけれど……お友だちに……なってくれる?」
 
 カノンの瞳が不安げにゆれます。レナは元気づけるようにぎゅっと両手を握りました。
 
「もちろん。わたしも、カノンがお友だちになってくれたら嬉しい」
「ありがとう……レナ」
 
 目を伏せたカノンがそっとレナに寄りかかりました。レナはその背中に手を添えます。
 静かになった部屋で、トトはそーっとふたりのために花の香りがする紅茶を淹れてあげるのでした。