それは、カノン姫の声でした。
「ごきげんよう、カノン姫。トトです。レナもいます」
「れ、レナです。はじめまして!」
すぐにぺこりと深くおじぎをしたレナですが、何も返事がないのでおそるおそる顔を上げました。
そこには、ふしぎそうにちょこんと首をかしげたきれいなお姫さまが座っていました。
まっすぐに伸びた長い黒髪とふわふわのフリルをふんだんにあしらった白いドレスは、まるでピアノの鍵盤のような色合いです。
背筋を伸ばし、きちんと指をそろえて座るたたずまいや、長いまつげにふちどられた瞳は美しいだけでなく、凛とした聡明さを感じさせます。
(このひとが……カノン姫なんだ)
レナはひと目見ただけで見とれていましたが、カノン姫はふいとそっぽを向いてしまいます。
「トト、どうしてこの子を連れてきたの?」
どこか戸惑いがちな声でした。呼びかけられたトトはおじぎから顔を上げます。
「カノン姫とお友だちになってくださいと、ボクがお願いしたんです。とっても優しくて、ステキな歌を歌ういい子なんですよ」
そう紹介されてはレナは照れくさくてたまりません。口元がニヤけてしまいそうになるのをけんめいにガマンします。ですが、カノン姫はつんと口をとがらせました。
「心配してくれるのはありがたいけれど、おせっかいもいいところだわ。わたくしのお友だちはアルトだけ。せっかく来てくれたけど、帰ってちょうだい」
「そ、そんな!」
「ええーっ!?」
ここまでたいへんな道のりをやってきたのに、カノン姫はあっさりと背を向けてしまいました。
「ひ、ひどいですよカノン姫! ボクもレナも、橋を越えて迷路をくぐり抜け、らせん階段をえっさほいさと上ってきたんです!」
「それはたいへんなことだったと思いますが……わたくしがお願いしたわけではありませんもの。帰り道はまっすぐ安全に帰れるようにいたします。それでよろしいかしら?」
カノン姫はぼうぜんとしているレナに問いかけます。確かにまっすぐ帰れるなら、レナはまたいつもの生活に戻れるでしょう。トトとお別れして、お家に帰ればいいのです。
(やっぱり、めいわくだったんだ)
レナは悲しい気持ちでいっぱいになりました。もしかしたらお友だちになれるかもしれないとわくわくしていただけに、ショックが大きかったのです。
涙がじわりと浮かびます。
(だめ。ここで泣いたらカノン姫にもっとめいわくかけちゃう)
レナはぎゅっと手を握って、お腹に力を入れました。すると……
ぐうううう……
「……あれっ?」
レナのお腹が大きな音を立てて鳴り出しました。
そういえば学校帰りにトトに声をかけられてからまっすぐここまで来たので、おやつを食べていないのです。
「レ、レナ?」
「おなか……すいたあ」
さっきまで泣きたい気持ちでいっぱいでしたが、今はお腹が空いてたまりません。
すると、カノン姫はくすくすと笑いだしました。
「もう……しかたないわ。せっかくのお客さまを空腹のままお帰ししたとあってはわたくしの名がすたります。あなた……レナ、さん?」
「はいっ」
はじめてカノン姫に名前を呼ばれました。レナは授業であてられた時のように手を高く上げて返事をします。
「お菓子を食べていってちょうだい。おもてなししてさしあげますわ」
そう言ってほほえんだカノン姫の笑顔は、初めて見た時よりもやわらかく、そして親しみやすく見えました。
(悪いひとじゃないのかもしれない……もっとお話をしてみたいな)
ぐうぐう鳴るお腹をおさえながら、レナはカノン姫に案内されてお茶会に招待されることになったのです。
「ごきげんよう、カノン姫。トトです。レナもいます」
「れ、レナです。はじめまして!」
すぐにぺこりと深くおじぎをしたレナですが、何も返事がないのでおそるおそる顔を上げました。
そこには、ふしぎそうにちょこんと首をかしげたきれいなお姫さまが座っていました。
まっすぐに伸びた長い黒髪とふわふわのフリルをふんだんにあしらった白いドレスは、まるでピアノの鍵盤のような色合いです。
背筋を伸ばし、きちんと指をそろえて座るたたずまいや、長いまつげにふちどられた瞳は美しいだけでなく、凛とした聡明さを感じさせます。
(このひとが……カノン姫なんだ)
レナはひと目見ただけで見とれていましたが、カノン姫はふいとそっぽを向いてしまいます。
「トト、どうしてこの子を連れてきたの?」
どこか戸惑いがちな声でした。呼びかけられたトトはおじぎから顔を上げます。
「カノン姫とお友だちになってくださいと、ボクがお願いしたんです。とっても優しくて、ステキな歌を歌ういい子なんですよ」
そう紹介されてはレナは照れくさくてたまりません。口元がニヤけてしまいそうになるのをけんめいにガマンします。ですが、カノン姫はつんと口をとがらせました。
「心配してくれるのはありがたいけれど、おせっかいもいいところだわ。わたくしのお友だちはアルトだけ。せっかく来てくれたけど、帰ってちょうだい」
「そ、そんな!」
「ええーっ!?」
ここまでたいへんな道のりをやってきたのに、カノン姫はあっさりと背を向けてしまいました。
「ひ、ひどいですよカノン姫! ボクもレナも、橋を越えて迷路をくぐり抜け、らせん階段をえっさほいさと上ってきたんです!」
「それはたいへんなことだったと思いますが……わたくしがお願いしたわけではありませんもの。帰り道はまっすぐ安全に帰れるようにいたします。それでよろしいかしら?」
カノン姫はぼうぜんとしているレナに問いかけます。確かにまっすぐ帰れるなら、レナはまたいつもの生活に戻れるでしょう。トトとお別れして、お家に帰ればいいのです。
(やっぱり、めいわくだったんだ)
レナは悲しい気持ちでいっぱいになりました。もしかしたらお友だちになれるかもしれないとわくわくしていただけに、ショックが大きかったのです。
涙がじわりと浮かびます。
(だめ。ここで泣いたらカノン姫にもっとめいわくかけちゃう)
レナはぎゅっと手を握って、お腹に力を入れました。すると……
ぐうううう……
「……あれっ?」
レナのお腹が大きな音を立てて鳴り出しました。
そういえば学校帰りにトトに声をかけられてからまっすぐここまで来たので、おやつを食べていないのです。
「レ、レナ?」
「おなか……すいたあ」
さっきまで泣きたい気持ちでいっぱいでしたが、今はお腹が空いてたまりません。
すると、カノン姫はくすくすと笑いだしました。
「もう……しかたないわ。せっかくのお客さまを空腹のままお帰ししたとあってはわたくしの名がすたります。あなた……レナ、さん?」
「はいっ」
はじめてカノン姫に名前を呼ばれました。レナは授業であてられた時のように手を高く上げて返事をします。
「お菓子を食べていってちょうだい。おもてなししてさしあげますわ」
そう言ってほほえんだカノン姫の笑顔は、初めて見た時よりもやわらかく、そして親しみやすく見えました。
(悪いひとじゃないのかもしれない……もっとお話をしてみたいな)
ぐうぐう鳴るお腹をおさえながら、レナはカノン姫に案内されてお茶会に招待されることになったのです。


