レナとまほうの歌のプリンセス~いっしょに歌えばみんな友だち!~

 長い長い迷路を抜けた先には天まで届きそうならせん階段がありました。

「この上にカノン姫がいるんだよ」
「勝手に入ったらお邪魔じゃない?」

 トトが指さす先は雲が立ち込めていて何も見えません。
 カノン姫のかたくなな心を表しているかのようでした。

「うーん……でも、このままじゃカノン姫はずっとひとりぼっちだ。勇気を出して一歩踏み出さないと。だから、ボクは行くよ」
「嫌われちゃうかもしれないよ?」

 レナが不安になってそう問いかけると、トトはゆっくり首を横に振って胸を張りました。

「嫌われることより、カノン姫がずっと寂しいままのひとりぼっちでいるほうが、よっぽど怖いさ」

 トトのぴんと伸びた長い耳でイヤリングが勇気づけるようにリンリンと鳴りました。それはトトだけでなく、レナの背中までも押してくれる、澄んだ響きでした。

「トト……なんだかすごく、かっこいい!」
「へっへー! いいよいいよ、もっとほめて!」

 ぴょーんとはずんだ足どりで、トトはらせん階段を上がっていきます。その後に続いてレナも一歩踏み出しました。

「トトって勇気があるのね」
「そうさ!」
「それにとっても思いやりがあって優しいし」
「よく言われる!」
「トトにこんな風に思ってもらえるカノン姫って、ステキなプリンセスなのね」
「そうなんだよ!」

 トトがあまりに勢いよく振り向いたので、レナはのけぞってしまいます。

 ぐらあ……っ!
 
「きゃあ!」
「危ない!」

 あわててトトが手を差し伸べます。しかしウサギの手ではレナに届きません!

〈やってみよう!〉
 数字の書かれた点を順に線でつないでみよう。何の絵が出てくるかな?
 こたえ:ことり(ぱたぱた飛んでレナを助けてくれたよ!)
 
 あわやらせん階段から落ちてしまうところでしたが、なんとかレナも無事、階段を上り切ることができました。

「助けてくれてありがとう」
「どういたしまして。でも、このくらいスリルがあったほうが、退屈しなくていいだろう?」
「もう、トトったら」

 笑いながらレナは窓の外を眺めてみます。
 くもり空が近づき、反対にお花畑は遠ざかってひとつひとつのお花は見えないほどです。

「あそこから上がってきたんだね」
「そうさ。そしてここがカノン姫のおへやだよ」

 トトが指し示した先には、大きなマホガニーの扉がありました。この向こうに、カノン姫がいるのです。

 (どんなお姫さまなんだろう)

 レナは自分がどきどきしていることに気がつきました。
 トトが優しく扉をノックします。

 コン、コン……
 
「カノン姫、ごきげんよう。トトです」

 返事はありません。

「いないの?」
「いいや」

 トトは目を閉じて、扉に耳をぴたりとつけました。

「いるよ……歌声がする」
「歌が?」

 レナにはちっとも聞こえません。
 すると、トトはイヤリングを片方外すとレナにつけてくれました。

「ボクの力のおすそ分け。これでよーく聞こえるはずだよ」
「……あ!」

 イヤリングをつけたとたん、レナの耳に何かが聞こえてきました。途切れ途切れのメロディです。

(きれいな声……でも、どうしてだろう。なんだかすごく、悲しくなる……)

 レナは胸が苦しくなって、扉にそっと寄り添います。
 すると……

 ギギギ……

「あっ」

 扉が開いていきます!

「ど、どうしよう。勝手に開いちゃった……」
「いや、これは……」

 トトは開いた扉とレナを順番に見てうなずきます。

「失礼します」

 トトはレナの手を取って部屋に入りました。

「……だあれ? トトなの?」

 すると歌はやみ、今にも消えそうなキレイな声が、話しかけてきたのです。