レナとまほうの歌のプリンセス~いっしょに歌えばみんな友だち!~

 空を見上げればだんだん夕やけのオレンジ色に染まってきています。
 なごり惜しいけれど、帰らなければおうちのひとがレナのことを心配してしまうでしょう。
 
「カノン……」
 
 レナはカノンを見つめます。カノンは何か言いたげに口を開きましたが、それを飲み込むようにきゅっとくちびるを引き結びました。
 
「……わかってるわ。レナはカデンツァ王国じゃない、別の世界から来たのだものね」
 
 自分に言い聞かせるようにそう言うと、カノンは身につけていたネックレスを外しました。虹色にきらきら輝くそれを、レナの首につけてあげます。
 
「これはわたくしからのプレゼント。いつでもカデンツァ王国に来られるようにお祈りをこめたわ」
「来て……いいの?」
 
 おずおずとレナが尋ねると、カノンもトトも大きく頷きました。
 
「あたりまえさ! レナはカデンツァ王国を救ったもうひとりのプリンセスだよ! 誰もがいつでも歓迎するさ。もちろん、ミューズ・ツリーだってね!」
 
 さっきまでのまじめなムードはどこへやら。トトはすぐにいつものくだけた言葉づかいに戻ってしまいました。
 それに、ウィンクを忘れないのがトトのひょうきんなところです。レナも思わずくすりと笑いました。

「ねえレナ、今日の思い出作りに、もう一度歌わない?」
「いいよ。何を歌う?」
「さっきはカデンツァ王国の歌を歌ったから、今度はレナの好きな曲を歌いたいの」
「私の好きな……」
 
 そこでレナは考えを巡らせます。真っ先に浮かんだのは、アイネちゃんとも歌ったいつもの大好きな曲でした。
 
「それなら、この曲はどうかな……」
 
 レナはすうっと息を吸い込みます。そして歌い始めました。
 
 ~ル……ララ♬、ル…………♪~
 
「まあ! ステキなメロディ……」
 
 カノンは目を閉じてレナの歌声に聞き入っています。自分ひとりで歌っているのがちょっぴり恥ずかしくもありましたが、アイネちゃんとの思い出の曲をカノンが聞いてくれている……そんな誇らしい気持ちのほうが大きいのがレナの正直な気持ちです。
 片目だけをちらりと開けて様子をうかがうと、カノンもトトも体を左右に揺らしてリズムに乗っています。
 
(そうだ!)
 
 レナはそれに合わせるように手を叩きはじめました。
 
 タン、ウン、タタタン、タン!
 
 お手本を見せるようにレナが大きく両手を広げて叩いてみせれば、カノンもトトも楽しそうに真似しています。
 やがて、そのリズムに乗ってカノンも歌い始めました。
 
 ル♪ ララ♪ ラララン、ラ!
 
 そのあとについてトトも気持ちよさそうに歌います。
 レナとカノン、そしてトトはお互いを見つめながら手拍子をして歌います。
 
(すっごく楽しい! なんてきれいな歌声なんだろう!)
 
 ひとりひとりの歌声が混ざり合い、溶け合ってひとつのハーモニーを奏でています。
 
「わっ」
 
 歌の途中でレナが目を丸くしました。歌声がリボンになったのです!
 3人の歌声からできあがったリボンは、カラフルな色をまとってひらりひらりと踊り出します。
 やがてレナたちをぐるりと囲んだリボンは、バウンドするようにぎゅっとレナたちを結びつけました。
 
「きゃあっ!」
「まあ!」
「わーっ!」
 
 ほっぺたがくっつくほどに音のリボンで結び付けられたレナとカノン、そしてトト。
 おしくらまんじゅうのようにひとつになった3人は、歌いながら笑いだしました。
 
「なあにこのリボン!」
「カノンにもわからないの? 歌ってたらいきなり現れたんだよ」
「おそらく、ボクらの思いと歌が響きあって生まれたんです。このリボンはおたがいを結びつけるシンボルのようなものかもしれませんね」
「おたがいを……」
 
 レナはリボンをそっとつまみます。すると、さっきまで3人を囲むほどに長かったリボンがあっという間に縮んでいきました。
 
 シュルーン!
 
「わあっ」
 
 髪を結べるくらいの長さになったリボンを、レナはじっと見つめます。
 
「これは、私からふたりへのプレゼント。イヤリングやネックレスのお返し。これを見て私のことを思い出してくれたら嬉しいな……もらってくれる?」
 
 こそばゆい気持ちを押さえながらレナはリボンを差し出します。
 すると、レナの手にカノンのやわらかい手と、トトのもふもふした手が重なりました。
 
「もちろんよ、レナ」
「大切にしますとも」
 
 カノンとトトがあたたかくうなずきます。
 レナの胸の奥にじーんとあたたかい音が響きました。
 それはちょっぴり涙を誘うものであったけれど……レナはまばたきを何度も何度も繰り返して、笑ってみせました。